Tooth-Dev シンポジウム情報
第19回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成27年9月11日)
(終了しました)第18回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成27年3月21日)
(終了しました)第17回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成26年9月25日)
(終了しました)第16回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成25年9月20日)
(終了しました)第15回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成25年9月11日)
(終了しました)第14回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成25年3月28日)
(終了しました)第13回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成25年3月27日)
(終了しました)第12回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム(平成24年9月14日)
(終了しました)第11回歯の発生生物学と作成に関するシンポジウム(平成24年3月26日)
(終了しました)第10回歯の発生生物学と作成に関するシンポジウム(平成23年9月30日)
第19回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
テーマ1
歯髄間葉系幹細胞の最先端研究
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成27年9月11日(土)13:00〜15:00
会 場
朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター 中会議室302B
オーガナイザー
山座 孝義(九大 院歯 分子口腔解剖)
本田 雅規(愛院大 歯 口腔解剖)
演題・演者
SS7-1 歯髄幹細胞の機能解析と組織再生治療への有効性の検討
秦 正樹(愛院大 歯 有床義歯)
山崎 英俊(三重大 院医 幹細胞発生)
川島 伸之,興地 隆史(医科歯科大 院医歯 歯髄生物)
山座 孝義(九大 院歯 分子口腔解剖)
テーマ2
Dentin Sialophosphoprotein(DSPP)を形態と機能から考える
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成27年9月11日(土)15:30〜17:30
会 場
朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター 中会議室301B
オーガナイザー
山越 康雄(鶴見大 歯 分子生化)
大島 勇人(新潟大 院医歯 硬組織形態)
演題・演者
SS12-1 オーバービュー:DSPP を形態と機能から考える
山越 康雄(鶴見大 歯 分子生化)
SS12-2 歯髄および象牙質中の DSPP 由来タンパク質〜 遺伝子発現と機能につい て 〜
山本 竜司(鶴見大 歯 分子生化)
SS12-3 象牙芽細胞分化過程における Dspp の機能的意義
斎藤浩太郎(新潟大 院医歯 硬組織形態)
SS12-4 幹細胞を用いた象牙芽細胞分化誘導法とそのメカニズム
尾関 伸明(愛院大 歯 歯内治療)
SS12-5 改変型組み換え DPP タンパク質を利用した硬組織再生における有用性
鈴木 茂樹(広島大 院医歯薬保 歯髄生物)
テーマ3
歯の形態形成のメカニズムを再考する
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成27年9月11日(土)15:30〜17:00
会 場
朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター 小会議室 303.304
オーガナイザー
原田 英光(岩医大 歯 発生生物・再生医学)
Han-Sung Jung(Dept Oral Biol, Yonsei Univ)
演題・演者
SS14-1 多生歯性の歯列を読み解く:ûZahnreiheý(A.G.Edmund 1960)理論の考え 方.魚類の歯を題材として
脇田 稔(歯科基礎医学会名誉会員)
SS14-2 歯の形態形成を再考する;Cope-Osborn の三結節説の再検討から
小澤 幸重(触れて観て考える「歯と骨」の訪問教室)
SS14-3 イメージングから考える歯の形態形成機構の新規視点
原田 英光,熊上 深香,大津 圭史,藤原 尚樹(岩医大 歯 発生生物・再生医学)
SS14-4 Current opinion in odontology
Han-Sung Jung(Dept Oral Biol, Yonsei Univ)
抄 録
SS7-1 歯髄幹細胞の機能解析と組織再生治療への有効性の検討
○秦 正樹
愛院大 歯 有床義歯
間葉系幹細胞の一種である歯髄幹細胞は 2000 年にその存在が明らかとなり,今日に至るまでに 様々な研究が進められている.歯髄幹細胞に関する論文数は年々増加し,その注目の高さを伺う ことができる.大きな特徴の一つに,智歯の抜歯や矯正治療による便宜抜歯といった本来不要と なった組織から採取可能なため,細胞供給源として魅力的といった点があげられる.また,凍結 保存によって細胞特性を維持することが可能なため,若年時に比較的低侵襲に細胞を採取し,必 要な時に解凍して使用するというストラテジーが考えられる.他にも,高い増殖能,多分化能, 免疫調整能,サイトカイン産生能などの特性を持つと報告されている. 私たちは,これらの特性を持つ歯髄幹細胞が組織再生治療に有用であると考え,現在歯髄幹細胞 移植療法の有効性について検討を行っている.一般的に細胞移植の際重要となる点としては,細 胞数と細胞特性が挙げられる.抜去歯の歯髄組織より採取した歯髄幹細胞の数には限りがある. そのため,細胞増殖能の活性化,多分化能の維持,もしくは分化誘導などを目的とした前処理に ついて,これまで周期的伸展刺激や磁場刺激を歯髄幹細胞に加え,その影響について機能解析を 行ってきた.また,組織再生治療に関しては骨組織,神経組織再生を対象として,歯髄幹細胞の 骨分化能,scaffold と複合させた際の増殖活性,ALP 活性について評価を行った.さらに,糖尿病 性神経障害を発症した動物に歯髄幹細胞を移植することにより,その伝導速度,血流量の改善な どが確認された. 本シンポジウムでは,私たちがこれまで行ってきた研究結果について報告する. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
○山崎 英俊
三重大 院医 幹細胞発生
間葉細胞は主に神経堤細胞と中胚葉に由来する.神経堤細胞は胎生期に神経管癒合部より発生す る細胞集団であり,神経細胞やグリア細胞のみならず骨や軟骨等の間葉系細胞にも分化すること が知られている.特に,神経堤細胞は,歯を含む頭蓋顔面の器官形成にも寄与している.歯の発 生には歯上皮と歯間葉の相互作用が重要であり,最終的に歯上皮はエナメル芽細胞に,歯間葉は 象牙芽細胞に分化する事が知られている. これまで,我々は,神経堤細胞及び中胚葉由来の細胞を蛍光標識出来るマウスを用いて,歯の間 葉には神経堤のみならず,中胚葉由来の細胞が胎仔期から成体まで寄与することを明らかにし た.歯髄の神経堤由来細胞は,間葉系幹細胞の検出系として知られる colony forming Unit Fibroblast (CFU-F)形成能を有していることがわかった.さらに,歯髄の間葉細胞は,造血関連遺伝子 を発現しており,B 細胞や破骨細胞の造血支持能を有していることもわかった. さらに,これまで,我々は試験管内で神経堤細胞派生物がどのように発生し分化するかを調べる 目的で,神経堤細胞を蛍光標識出来るマウスから胚性幹細胞を作製している.これらの蛍光標識 細胞から色素細胞や神経系細胞のみならず骨芽細胞や脂肪細胞を含む間葉系細胞を分化誘導し たので,簡単に紹介したい. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
○川島 伸之,興地 隆史
医科歯科大 院医歯 歯髄生物
歯髄組織は,神経堤由来の間葉系の組織であり,以前より未分化間葉系幹細胞の存在が報告され ている.歯髄組織由来の幹細胞は,他の組織由来の間葉系幹細胞と比較して,増殖能および分化 能ともに高いと報告されている.再生医療において歯髄組織由来の幹細胞を用いる場合,歯髄組 織のソースとなるのは,健全な智歯が最も一般的であるが,すでに智歯を抜去してしまった場合, あるいはもともと智歯が欠損している場合には,歯髄幹細胞を得ることができない.そのために, 歯髄組織に変わる間葉系幹細胞のソースとして歯肉の間葉組織に着目した.歯肉組織は,大変再 生能の高い組織であり,歯肉を部分切除しても,その部に歯肉を再生させることは可能である. しかし,以前より歯肉由来の線維芽細胞は反応性に乏しい細胞として扱われてきている.今回, 歯髄組織および歯肉組織由来の間葉系幹細胞の硬組織形成に関する特性を通常の二次元培養に 加えて,三次元スフェロイド培養条件下においても比較した.その結果,二次元培養では,歯髄 由来間葉系幹細胞により高い硬組織マーカー発現を認めたが,三次元培養を行うことで,両間葉 系幹細胞の硬組織マーカー発現は増加し,さらに石灰化結節形成も誘導された.すなわち,硬組 織形成細胞への分化傾向は,歯髄組織由来間葉系幹細胞がより高い傾向を示したが,歯肉由来間 葉系幹細胞においても分化誘導は可能であることが明らかになった. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
○山座 孝義
九大 院歯 分子口腔解剖
歯髄幹細胞は,まずヒト永久歯歯髄組織に由来する歯髄幹細胞 dental pulp stem cells (DPSCs)が発 見された(Gronthos et al., PNAS, 2000).その後,脱落乳歯幹細胞 exfoliated deciduous teeth (stem cells from human exfoliated deciduous teeth (SHED) (Miura et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2003), 根未完成の歯根根尖部幹細胞 stem cells from apical papilla (SCAP) (Sonoyama et al., PLoSOne, 2006),過剰歯幹細胞 supernumerary tooth derived stem cells (SNTSCs) (Makino et al., J Dent Res, 2013)と次々に幹細胞の存在が明らかとなり,現在では,これら歯髄幹細胞の優れた増殖能力と 多分化能力に注目して,再生医療への応用が期待されている. 乳歯幹細胞 SHED は,脱落した乳歯に残存する歯髄から同定された組織幹細胞である.様々な細 胞へと分化する多分化能のみならず,優れた免疫調節能を備えている事も明らかとなってきた. 本シンポジウムでは,現在までに解明されている乳歯幹細胞 SHED の有する幹細胞学的特性を紹 介するとともに,我々の最新の研究成果をもとにして,乳歯幹細胞 SHED を応用した橋渡し研究 について考察してゆく予定である. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
SS12-1 オーバービュー:DSPP を形態と機能から考える
○山越 康雄
鶴見大歯分子生化
象牙質を構成する有機質は約 90%がコラーゲンで,残りを非コラーゲン性タンパク質(NCP)で占 める.NCP のうち最も多く含まれるのが象牙質シアロリンタンパク質(DSPP)由来のタンパク質 である.ブタ DSPP は象牙芽細胞で合成・分泌後,骨形成タンパク質 1,マトリックスメタロプロ テアーゼ 2 および 20 により,象牙質シアロタンパク質(DSP),象牙質糖タンパク質(DGP),象牙 質リンタンパク質(DPP)の 3 つのタンパク質にプロセシングされる.DSP は共有結合性の二量体 を形成し,アスパラギン酸結合型(N 型)糖鎖とコンドロイチン 4 および 6 硫酸鎖を含むプロテオ グリカンである.また DGP は N 型糖鎖とリン酸基を含むリン酸化糖タンパク質である.さらに DPP は約 80%がセリンとアスパラギン酸で構成され,セリンの約 70〜80%がリン酸化されてい る強酸性タンパク質である.その偏ったアミノ酸組成のため,構造にはセリン-アスパラギン酸 の繰り返し配列が多く存在し,それに依存した遺伝子多型が見られる.DSPP 遺伝子は象牙質形 成不全症および象牙質異形成症を引き起こす原因遺伝子であり,それゆえにこのタンパク質の研 究は象牙質形成機構を解明するための重要テーマであった.加えて近年の象牙質および歯周組織 再生研究においても DSPP は不可欠なタンパク質である.本サテライトシンポジウムでは,DSPP の形態および機能を理解することで,DSPP の基礎研究から将来の臨床応用に展開するためのア イデアが得られることを期待する. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
SS12-2 歯髄および象牙質中の DSPP 由来タンパク質〜 遺伝子発現と機能につ いて 〜
○山本 竜司
鶴見大歯分子生化
ブタ象牙質シアロリンタンパク質(DSPP)は,象牙質シアロタンパク質(DSP),象牙質糖タンパク 質(DGP),象牙質リンタンパク質(DPP)の 3 つのタンパク質から構成される.DSPP 遺伝子は 5 つ のエクソンから構成されるが,ブタおよびヒトにおいては少なくとも 2 つの mRNA バリアント が存在する.一つは DSPP 全長体をコードし(DSPP mRNA),もう一つはイントロン 4 に含まれる ポリ A シグナルの利用により DSP のみのバリアントをコードする(DSP-only mRNA)(DGP, DPP はエクソン 5 からコードされる).我々は歯髄先端部,本体部,象牙芽細胞より total RNA を 調製し,リアルタイム PCR でそれら 2 つの mRNA の発現量を調べた結果,DSP-only mRNA の遺 伝子発現量は歯髄本体部,象牙芽細胞でほぼ同じであったが,DSPP mRNA は象牙芽細胞で優位 に高かった.また象牙芽細胞における 2 つの mRNA の発現量は DSPP mRNA が DSP-only mRNA よりも優位に高かった.さらに歯髄からタンパク質を抽出・分離し,DSPP 由来タンパク質につい て調べた結果,DSP は認められたものの DPP は検出されなかった.次に我々はそれら DSPP 由来 タンパク質の機能を調べるために歯髄本体部および象牙質から DSP および DPP を分離精製した ところ,歯髄では DSP,象牙質では両タンパク質の抽出される画分に TGF-β1 活性が認められた ので,象牙質試料においてさらに分離精製を試みたところ,TGF-β1 と結合している DSP および DPP を発見した.リコンビナント TGF-β1 を用いた結合実験では,TGF-β1 は DSP および DPP に 結合することでその活性が維持されることが判明した.本サテライトシンポジウムでは,上記歯 髄および象牙質における DSPP の遺伝子発現と機能をさらに討論したいと考えている. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
SS12-3 象牙芽細胞分化過程における Dspp の機能的意義
○斎藤浩太郎1,中富 満城2,依田 浩子1,大島 勇人1
1新潟大 院医歯 硬組織形態 2九歯大 解剖
象牙芽細胞分化マーカーとして,象牙質リンタンパク質(Dpp),象牙質シアロタンパク質(Dsp), 象牙質基質タンパク質 1(Dmp1),熱ショックタンパク質 25(Hsp25),ネスチンの組合せが利用 できる.最近我々は,マウスおよびラット象牙質形成過程における象牙芽細胞分化マーカー ネ スチン,Hsp25,Dsp,象牙質シアロリンタンパク質(Dspp)の発現パターンを免疫組織化学・in situ ハイブリダイゼーション法を用いて比較した.前象牙芽細胞は分化過程に従ってネスチンお よび Hsp25 発現を開始したが,Dspp 発現は認められなかった.幼若象牙芽細胞は象牙質の石灰化 と同時に Dspp の転写を開始し,Dspp,ネスチン,Hsp25 は成熟象牙芽細胞で共発現した.常生歯 である切歯とは対照的に,臼歯では Dspp は第一象牙質形成が完了する時期の休止期象牙芽細胞 で下方制御された.注目すべきことには,ネスチンと Hsp25 は,歯の損傷後の歯髄治癒過程にお いても新たに分化した象牙芽細胞様細胞での Dspp 発現よりも先行して発現が見られた.以上の 様に,ネスチンと Hsp25 は第一象牙質形成完了後の分化した象牙芽細胞に持続的に発現した. Dspp mRNA 発現は象牙質基質沈着と石灰化のための象牙芽細胞の機能活性と一致していた.さ らに,最近の我々の研究により,石灰化前線のオステオポンチン(OPN)の沈着は,歯の切削後 の歯髄治癒過程における修復象牙質形成のための新たに分化した象牙芽細胞様細胞による I 型コ ラーゲンの分泌に必須であることが明らかになっている.一方,OPN の欠如は象牙芽細胞様細胞 におけるネスチンと Dspp の発現には影響を与えない.本シンポジウムでは,象牙芽細胞および 象牙芽細胞様細胞の分化・機能活性におけるこれらのシグナル間相互作用を議論したい. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
SS12-4 幹細胞を用いた象牙芽細胞分化誘導法とそのメカニズム
○尾関 伸明1,茂木眞希雄2,中田 和彦1
1愛院大 歯 歯内治療 2愛院大 薬 生体機能化学
現在,わが国の再生医療の核となるのは,人工多能性幹細胞(iPS 細胞 : Induced pluripotent stem cell)である.近年,歯科再生医療において注目を集めているヒト歯髄幹細胞は,そのソースとし て抜去歯が想定されている.しかし,採取量がごく微量であり,また,抜去歯そのものが採取で きない場合には,代替細胞ソースとして他の組織由来の幹細胞,あるいは,ES 細胞や iPS 細胞の 使用が必須となる. 歯髄細胞群は象牙芽細胞,線維芽細胞,神経細胞などから構成されるが,特徴的な点として象牙 芽細胞の存在比が高く,歯髄再生において重要な役割を果たす.その一方で,臨床応用上の問題 は,象牙芽細胞の生体内での存在量は極めて微量であり,ラット KN-3 細胞を除いて,市販培養 細胞も含め入手可能な培養細胞系はほとんどない.また,研究の多くが象牙芽細胞の分化あるい は性状に着目したもので,in vitro における象牙芽細胞の分化ならびにその再生機構に着目した研 究は未だ少ない.そのため,この現状を打破する新しい技術として,幹細胞から象牙芽細胞への 安全かつ効率的な分化誘導法の確立が望まれてきた. 本シンポジウムでは,我々が様々な研究アプローチにより確立した 3 種の幹細胞(マウス ES 細 胞,マウス iPS 細胞およびヒト骨格筋幹細胞)を用いた象牙芽細胞分化誘導法と Dentin sialophosphoprotein (DSPP) 発現の応用例,さらに,small interfering RNA (siRNA) を用いて,その分化 に関与するシグナルカスケードの検討を行った最近の研究を中心に,今後の課題と展望を含めて 考察したい. 【利益相反】利益相反がないことを宣言する.
SS12-5 改変型組み換え DPP タンパク質を利用した硬組織再生における有用性
○鈴木 茂樹1,小武家誠司1,春山 直人2,柴 秀樹1
1広島大 院医歯薬保 歯髄生物 2九大 歯 矯正
<実験目的> Dentin phosphoprotein (DPP) は,高度にリン酸化された Ser-Asp 繰り返し配列 (SDrr) を持つ細胞外基質で,高い酸性度ゆえに組み換え DPP タンパク質(rDPP)の発現・精製は 困難であるとされてきた.本研究では,rDPP の硬組織再生材料としての有用性を検討するため, 通常型 rDPP およびインテグリン結合配列(RGD)近傍アミノ酸を置換あるいは SDrr を様々な長 さに短縮した改変型 rDPP を作製し,これら組み換えタンパク質の細胞刺激活性および石灰化誘 導能を評価した.<結果>rDPP は同一手法で作製した rDMP-1 と異なり,RGD 依存的な細胞接 着・遊走能を示さなかった.DPP-RGD を含む合成ペプチドの前添加による細胞接着抑制実験お よび RGD 近傍アミノ酸を様々に置換した rDPP による細胞接着誘導実験から,RGD 下流の A-S bond が DPP-RGD の機能を抑制していることが判明した.さらに,in vitro gel diffusion system を 用いて検討した結果から,rPP-Δ63.5 SDrr (SDrr の 63.5%が欠失した rDPP)は rDPP と同程度の リン酸およびカルシウムの蓄積を誘導したが,rDPP-ΔSDrr (SDrr 全長が欠損した rDPP) は有意 に低い蓄積量を示し,無添加群と同程度であった.ELISA で定量した培養上清中の rDPP-Δ63.5 SDrr は rDPP と比較し 7.1 倍量の rDPP が分泌されていた.<結論・考察>DPP-RGD 機能を制御 する近傍アミノ酸を同定した.推定 DPP アミノ酸配列から,歯を持つ生物種の DPP は rDPP- Δ63.5 SDrr と比較して総じて長い SDrr を持つことから,これら生物種は細胞外基質石灰化に最 低限必要な SDrr を持ち,生物種間での SDrr 長の variation による機能的差異は無いと推測された. また,rDPP-Δ63.5 SDrr がカルシウムおよびリン酸蓄積効果と分泌量双方の観点から,有用な石 灰化誘導因子であることが明らかとなった. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
SS14-1 多生歯性の歯列を読み解く:Zahnreihe(A.G.Edmund 1960)理論の考え方.魚類の歯を題材として
○脇田 稔
歯科基礎医学会名誉会員
歯の交換現象を論理的に解析しようとするときには,ある種の困難さを伴う.一般に,歯の交換 機構あるいは歯の交換の連続性を図式化して解析するためには,Edmund(1960)によって提唱さ れた Zahnreihen 理論について理解することを避けて通れない.この理論は,Bolk (1898) ならび に Woerdemann (1912)以来の記載を復活し,吟味を加えて再構築したものである.ここで同時に, 彼は,歯の発生を動機づける要素として 刺激 stimulus(li)$の存在を仮定し,ひとつの 刺激 stimulus$により,時間を追って順次作られる一連の歯と歯胚の列を, Zahnreihe$と定義してい る. この Zahnreihe 理論は,下等脊椎動物の歯列と多生歯性を理解するための説明するための方法と して,一つの解を与える.しかしながら,Edmund によるこれらの解析理論は大変複雑なので, Edmund の言いたいことの理解を難しくしており,また不必要な誤解を生じ,さらに誤用によっ て信頼性を欠く研究を作り出している.著者らは,かつて,魚類で多生歯性の歯列を検索し, Edmund によって提唱された Zahnreihe 理論を用いて,この魚の歯の交換現象を解析することを試 みている.(Wakita, M. et al : Tooth replacement in the teleost fish Prionurus microlepidotus Lacepede, J. Morph., 153: 129-142, 1977) 今回は,一般の下等脊椎動物に見られる多生歯性を再考察する良い機会であるので,多生歯性歯 列における歯の交換現象はいかに理解すべきか,またどのように用いられているかを,を紹介す る. 【利益相反】著者は利益相反がないことを宣言する.
SS14-2 歯の形態形成を再考する;Cope-Osborn の三結節説の再検討から
○小澤 幸重
触れて観て考える「歯と骨」の訪問教室
Cope-Osborn が三結節を提唱(1883 年)して以来 100 年以上経過するが,最先端と言われる歯の 再生医学や分子生物学的な発生実験においても,そして歯の解剖学においても,多かれ少なかれ 歯の形態の根拠をこの説を基本においている.果たしてそれでよいのか?というのが本発表であ る.そのため改めて Osborn の「哺乳類の大臼歯進化」を訳出し直し,この説の問題を抽出した. この大著は,ヒトを含む哺乳類の臼歯の咬頭名を統一し比較しうる点で歯学に画期的な貢献をし た.彼らは古生物の専門家であり,古生物の種の鑑別にもっとも利用できるのが大臼歯の歯冠で あった.それゆえ大臼歯歯冠の形態を主眼としたのである.この時代は C. Darwin が「種の起源」 (1859 年)を,これに基づく「反復説」(1866 年)を E. Haeckel が提唱してから約半世紀で,進化 のうねりが社会を厚く覆っていた.それゆえ原錐 protocone を爬虫類の円錐歯と対応させ,咬頭 の名称を進化の順序=発生の順序と一致すると考えたのである.当時から,おもに発生学者から 数多くの反論があった.たとえば咬頭の発生順序や萌出順序に変異が多いことからこれが理解さ れよう.しかし,三結節説に代わるすべての歯の現象を説明しうる仮説がこれまでに無い.それ ゆえ三結節説が今なお命脈を保っていると考えられる.これを乗り越えるためには歯の形態形成 を体制の観点から反省しなければならない 【利益相反】なし
SS14-3 イメージングから考える歯の形態形成機構の新規視点
○原田 英光,熊上 深香,大津 圭史,藤原 尚樹
岩医大 歯 発生生物・再生医学
歯の発生過程における歯胚の形態変化は,薄切された標本を用いて組織学的に観察されてきた. さらにそれらの連続切片を用いた 3 次元構築像は,歯胚の形態を理解する上で大いに貢献してき た.しかし,この方法では広範囲にわたる組織をより深くまで捉えた 3 次元構築像を作製するこ とは極めて技術的に難しいことや歯胚発生過程での時間的な形態変化を観察することは不可能 である.最近,細胞特異的に蛍光を発する遺伝子改変マウスや組織試料を透明化することによっ て周囲組織を破壊することなく内部構造を観察できる技術が開発された.そこで,我々はサイト ケラチン 14 を発現する細胞が tdTomato(赤色蛍光)を発現するように遺伝子改変した CK14cre/ Rosa26RtdTomato マウスを作製して,切歯歯胚の発生過程における上皮形態を 3 次元的に観察し た.その結果,従来までの組織標本ではわかりづらかった歯堤の形態を示すことができ,歯堤と 切歯歯胚との関係がより明確に観察できた.一方で我々は,GFP マウスから摘出した切歯歯胚の 器官培養を行い,切歯歯胚の連続した形態変化と細胞の動きを観察した.その結果,切歯唇側上 皮の外エナメル上皮には膨らみをもった上皮塊が存在することを見いだした.この部位の細胞は 細胞分裂を行わず,また異なる方向に細胞を生み出す起点になっていると考えられた.このよう に新しいイメージング技術の開発は,新しい知見や考えを生みだす可能性を秘めている.今回の シンポでは,切歯歯胚に加えて臼歯歯胚の発生過程での観察も含めて比較検討することで,新規 イメージングから考えられる新しい歯の発生の視点について議論したい. 【利益相反】発表演題の内容に関連し,開示すべき利益相反状態はありません.
SS14-4 Current opinion in odontology
○Han-Sung Jung
Dept Oral Biol, Yonsei Univ
The development of multicellular organisms relies on the coordinated control of cell organization leading to proper patterning of tissues. The molecular mechanisms underlying pattern formation, particularly the regulation of formative cell organization, remain poorly understood. Using cusp-specific tooth models of mice and gerbils combined with data from tissue recombination and inhibitors experiments, that FGF4 regulates the spatial expression of specific genes involved in cell organization. Furthermore, altering the activation of these cytoskeleton regulators resulted in cusp patterning changes. The results indicate that proper pattern formation is achieved through spatial regulation of specific genes in cytoskeleton and adherens junctions in a cell-type-specific context. Taken together, for providing evidence for a direct link between signaling molecule, specific components of the cell- and tissue-architecture machinery and organ patterning. It proposes a mechanistic framework to demonstrate the F-actin-based flexible epithelium progressively folded inward between two E-cadherinand Fibronectin-based mechanically rigid portions to form a cusp shape. Diversity of tooth morphology with variable shapes will be the endless question beyond the mixture of the odontology. The fundamental relevance of morphology and morphogenesis are given to illustrate potential impact of conceptual and theoretical innovations in tooth morphology. Conflict of Interest: The author declare no conflicts of interest associated with this manuscript.
第18回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
テーマ
歯の形態形成を調節する膜トランスポーターの生理機能
Physiological functions of membrane transporters that regulate signals for tooth morphogenesis and differentiation
共 催
歯の発生の会
日 時
平成27年3月21日(土)15:30〜17:00
会 場
神戸国際会議場・展示場(神戸ポートアイランド)Room I
オーガナイザー
澁川 義幸(東京歯科大学)
大島 勇人(新潟大学)
演題・演者
S19-1 V-H+ATPase の a3イソフォーム GFP マウスと遺伝子欠損マウスを用いた解析による歯の発生と骨改造との関係
Analysis of tooth development and bone remodeling using a3 isoform of V-H+ATPase -GFP and -defi cient mice
原田 英光 岩手医大・解剖・発生再生
S19-2 エナメル質形成を制御する糖代謝の新規メカニズム
Role of glucose metabolism in amelogenesis
依田 浩子 新潟大・院医歯・解剖
S19-3 歯髄細胞における細胞外カルシウム /リン酸イオンによる BMP-2発現調節
Regulation of BMP-2 expression by extracellular-calcium/-phosphate ions in dental
根本 英二 東北大・歯・歯内歯周治療学
S19-4 ATP を介した象牙芽細胞-神経細胞連絡機構
Intercellular odontoblast-neuron signal communication via ATP
佐藤 正樹 東歯大・生理
抄 録
Analysis of tooth development and bone remodeling using a3 isoform of V-H+ATPase -GFP and -deficient mice.
Hidemitsu Harada1, Sahara Yoshinori2, Sawa Horie2, Mayumi Nakanishi-Matsui3, Naomi Matsumoto3, Hayato Ohshima4, Naoki Fujiwara1, Keishi Otsu1.
1Dpt. Anat., 2Dpt. Physiol., 3Dpt. Biochem., Fac. Pharm. Sci., Iwate Med. Univ. 4Div. Anat., Niigata Univ. Grad. Sch. of MDS
Vacuolar proton-ATPase (V-H+ATPase) is a multi-subunit enzyme that regulates proton transport and creates the acidic microenvironment. Recently, it has been reported that the strong expression of the a3 isoform is closely associated with the exocytosis of some cells. To examine the localization and function of a3 isoform in the bone and tooth development, we used a3 isoform-GFP and -deficient mice. The strong expression of GFP was detected specifically at osteoclasts, but not dental epithelial cells. The size of body and head of a3 isoform–deficient mice was small, and the tooth eruption was inhibited or delayed, and the root was often morphologically short and anomaly. Though the tooth germs grew normally until bell stage in the development, ameloblasts structurally was unaffected and the mineral content of enamel was similar to that of wild type mice. Interestingly, the bone mineral content of the mutant was lower than that of wild type unexpectedly. Furthermore, to examine the character of the dental epithelial cells in detail, we produced a dental epithelial cell line from the mutant mice and compared the cell line with wild type cell line about organelle acidification. The results showed that there is no difference between these cells. Taken together, it is considered that the decline of bone metabolism resulted in tooth anomaly.
There is no conflict of interest.
Role of glucose metabolism in amelogenesis
Hiroko Ida-Yonemochi
Div. of Anat. and Cell Biol. of the Hard Tissue, Niigata Univ. Grad. Sch. of Med. and Dent. Sci.
In organogenesis, cells exhibit various behaviors, such as proliferation, changes in cell shape, matrix production and secretion. It is generally believed that many cells utilize glucose as the basis of energy, and the glucose metabolic pathway is a critical event in determining cell behavior in organogenesis. Blood glucose is transported into cells by glucose transporters (GLUTs), and GLUTs are expressed in tissue- and cell-specific functional manners depending on various glucose requirements. Recently, we demonstrated that the expression of GLUT1/2 in the dental cells is precisely and spatiotemporally controlled depending on cell differentiation. In an in vitro organ culture experiment with an inhibitor of GLUTs1/2, the bud-stage tooth germs showed the developmental arrest of the explants. And the inhibition of GLUTs1/2 in cap-to-bell-stage tooth germs reduced tooth size. These findings suggest that the glucose uptake mediated by GLUT1/2 plays a crucial role in the early tooth morphogenesis and tooth size determination. Next, we examined the glucose metabolism in amelogenesis. We found that the timing of glycogen synthesis, accumulation and degradation is also tightly associated with the process of ameloblast differentiation. In vitro organ culture experiment, the inhibition of glycogen synthesis/degradation disturbed ameloblast differentiation and enamel matrix formation, and the activation of Akt signaling by IGF-1 consequent glycogen accumulation led to an increase in enamel matrix formation. Thus, the glycogen shunt governed by IGF-1-Akt signaling is an essential system for ameloblast differentiation.
Regulation of BMP-2 expression by extracellular-calcium ions/-phosphate ions in dental pulp cells
Eiji Nemoto
Department of Periodontology and Endodontology, Tohoku University Graduate School of Dentistry
Dental pulp cells, which have been shown to share phenotypical features with osteoblasts, are capable of differentiating into odontoblast-like cells and generating a dentin-like mineral structure. Elevated extracellular calcium (Ca2+o) and extracellular phosphate (Pi) are known to play key roles in promoting osteoblastic differentiation by altering gene expression and cellular function; however, the roles of Ca2+o and/or Pi signaling in odontogenesis remain unclear. We found that elevated Ca2+o as well as Pi increase the gene expression of bone morphogenetic protein (BMP)-2, a crucial regulator of mineralization, in human dental pulp cells. The Ca2+o-mediated BMP-2 increase was markedly inhibited by pretreatment with an extracellular signal-regulated kinase (ERK) inhibitor, PD98059, and partially inhibited by the L-type Ca2+ channels inhibitor, nifedipine. However, pretreatment with nifedipine had no effect on ERK1/2 phosphorylation triggered by Ca2+, suggesting that the Ca2+ influx from Ca2+ channels may operate independently of ERK signaling. On the other hand, Pi-mediated BMP-2 expression requires activation of cAMP/protein kinase A, which is indispensable but not sufficient for the BMP-2 increase. Moreover, the BMP-2 increase requires activation of ERK1/2 pathway, which may operate independently of cAMP-dependent signaling. Importantly, it may be possible to use this knowledge as a means to deliver Ca2+o and Pi to local sites to regenerate mineralized tissues associated with the oral cavity.
Odontoblast-trigeminal ganglion neuron communication via ATP released following TRP channels activation
Masaki Sato
Tokyo Dental College
Various physiological and/or pathological stimuli induce pain when applied to the surface of the exposed dentin. There is, however, no clarity regarding the precise mechanisms of dentinal pain generation as well as the role of odontoblasts in the underlying sensory transduction pathway. In order to determine if odontoblasts act as sensory receptors in this pathway, we mechanically stimulated odontoblasts and investigated transient receptor potential (TRP) channel activation in these cells and the subsequent intercellular signaling between odontoblasts and neurons. Direct mechanical stimulation of single odontoblasts increased intracellular calcium concentration ([Ca2+]i) via TRP-V1, -V2, -V4, and -A1 channel activation. In a co-culture of odontoblasts and trigeminal ganglion (TG) neurons, direct mechanical stimulation of single odontoblasts increased [Ca2+]i not only in the stimulated odontoblasts, but also in neighboring odontoblasts and TG neurons. The [Ca2+]i increase in neighboring odontoblasts and TG neurons, but not that in stimulated odontoblasts, was inhibited by an extracellular ATPase and a pannexin-1 inhibitor in a concentration- and spatial-dependent manner. A P2X3 receptor antagonist suppressed the [Ca2+]i increase in neighboring TG neurons, but not in stimulated and neighboring odontoblasts. These results show that TRP channel activation in mechanically stimulated odontoblasts results in ATP release via pannexin-1 and the ATP transmits a signal to the P2X3 receptors on TG neurons. The results also suggest that odontoblasts act as sensory receptor cells and ATP acts as a transmitter in the sensory transduction following dentin stimulation.
第17回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
(第56回歯科基礎医学会学術大会・総会サテライトシンポジウムとして開催します)
テーマ1
「藤田恒太郎原著「歯の解剖学」の未解決問題を考える〜歯と顎の形態進化に着目して〜」
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成26年9月25日(木)13:00〜15:00
会 場
福岡国際会議場 C会場(405+406)
オーガナイザー
土門 卓文(北大 院歯 口腔解剖)
大島 勇人(新大 院医歯 硬組織形態)
演題・演者
SS5-1:歯冠・歯根表面と DEJ そして歯髄腔形態の関連性と進化の検討
小澤 幸重(日大 松戸歯)
SS5-2:上顎大臼歯の退化傾向に関する藤田理論を再考する:形態地図法を用いた定量化による検討
森田 航1、森本 直記2、大島 勇人1(1新大 院医歯 硬組織形態、2京大 院理 自然人類)
SS5-3:歯頸線の形態とその歯面分布について
土門 卓文(北大 院歯 口腔解剖)
SS5-4:先天性多数歯欠損患者での残存歯の形態
須田 直人(明海大 歯 歯科矯正)
抄 録
SS5-1:歯冠・歯根表面と DEJ そして歯髄腔形態の関連性と進化の検討
小澤 幸重
日大 松戸歯
背景;藤田恒太郎「歯の解剖学」は歯の形態を科学的視点から反省する格好の本であろう。その視点を学生へ訴える苦労が行間から滲み出し、将来に委ねた問題も多い。その一つが歯髄腔と歯の形態との関連である。歯髄腔の形態は、例えば上条「日本人の永久歯牙解剖学」では記述は少しあるが図が心許ない、Carsen の Dental Anatomy も図は簡略である。殆どの歯髄の論文も歯根の分岐や歯根側枝の形態に終わっている。この中で藤田の教科書は記載が少ないが図は詳細に描かれ、問題が提議されている。しかし臨床の要求に応えられていない。これは、歯髄腔の形態が歯の連続切断面か液浸標本によるという観察の限界がある。近年 μCT の出現でこれが一変した。同じ歯で非破壊的に全形態が観察できるからである。それでも様々な問題、二次象牙質やセメント質の添加によるノイズ、解像度がよく正確な映像を得るための時間と良い試料と数の等々が横たわる。今回はこの問題を考慮しつつ Courtesy ofBrown Herbranson ImagingeHuman 3DInterractive Tooth Atlas(株式会社ニッシンの好意による)を用いて歯髄をふくむ歯の形態の分析を行った。標本は乳歯と永久歯の全歯種約 200 本だが、歯種による偏りもあり、二次的な形質を含まない歯を観察した。
結果;乳歯、永久歯ともに歯髄腔はほぼ歯冠部と歯根部に分かれるが、歯冠部は括れによって歯帯領域と咬頭領域に区分される。咬頭領域では主要な咬頭(切縁あるいは咬頭)が歯髄腔に認められるが副次的な構造は乏しい。歯帯は殆どの歯で膨む。根管は歯根入り口の広い根幹と歯根中腹、根尖が膨らみと括れによって区分される。これらは変異が大きいがほぼ共通の特徴である。これらの領域の境界は歯冠では咬頭側と歯帯、そして歯根表面ではその括れに連動する。これは歯冠がエナメル質も象牙質も咬頭(切縁、尖頭)と歯帯の 2 部分、歯根が根幹、根中腹、根尖のほぼ 3 領域に区分できることを示している。さらにここから歯帯と根幹領域の象牙質はほぼ一定の厚さであることが伺える。そして象牙質のこの区分はその系統発生が反映していることを推定させる。またカラベリーの結節などの重要な副咬頭は歯髄と DEJ とエナメル質表面が連動することもあるが、連動しないこともある。
展望;今後はこのような資料が蓄積されることを願うものである。
SS5-2:上顎大臼歯の退化傾向に関する藤田理論を再考する:形態地図法を用いた定量化による検討
森田 航1、森本 直記2、大島 勇人1
1新大 院医歯 硬組織形態、2京大 院理 自然人類
Butler が提唱した歯の形態形成場の理論をベースに、同一の形成場に属する歯の形態が連続的に推移することはよく知られている。上顎大臼歯においては、第一大臼歯(UM1)が最も大臼歯場の影響を受ける鍵歯であり、第二大臼歯(UM2)、第三大臼歯(UM3)にかけて、その形態は退化する傾向にあるとされる。この規則的な形態の推移について藤田恒太郎原著『歯の解剖学』のなかでは、8 つの特徴が挙げられているが、その中でも咬合面形態において 2つの退化の様式(=「近遠心的な圧平」と「咬頭の退化」)があることが示されている。また「上顎各大臼歯間の形態的差異というものは結局、量的なもので質的なものではない」ことにも言及している。だが、変異の幅の大きな上顎各大臼歯形態を定量的に比較する方法はこれまで無く、本当に退化傾向は 2様式に分けられるのか、UM1 から UM3 へ形態は連続的に変化するのか、という点は実証されてこなかった。そこで我々は、歯冠の 3 次元形状を定量化する形態地図法を開発し、歯種間の形状変異から大臼歯の退化にどのような傾向があるのかを検討した。試料には、咬耗の形態分析に与える影響を排除し、歯冠形態の本質的な形状を保持していると考えられるエナメル象牙境を用いた。
その結果、3つの歯種からなる上顎大臼歯全体の変異を最も説明する特徴は、各咬頭の相対的な高さと近接度合いであった。これは『歯の解剖学』における「咬合面の単調化」に相当すると考えられるが、必ずしも歯種間の退化傾向を説明するものではなく、歯種ごとの変異の幅に収まった。次に全体の変異を説明する形態的特徴はハイポコーンの退縮であり、これは藤田の咬合面退化の2様式のうち、「咬頭の退化」に相当する。
この特徴により UM1 と UM2&UM3 とが区別された。『歯の解剖学』においては、退化の「落差はUM2 と UM3 との間の方が UM1 と UM2 との間よりも大きい」ことが指摘されているが、本研究の結果はこれと相反する。鍵歯である UM1 が他の歯種とは異なる形態変異を持つと言える。本発表では、『歯の解剖学』で挙げられているその他の上顎大臼歯における規則的な形態の推移についても検討し、「退化傾向」とは何なのかについて議論したい。
SS5-3:歯頸線の形態とその歯面分布について
土門 卓文
北大 院歯 口腔解剖
【目 的】藤田・中山(1940)はヒト永久歯歯頸線の形態を観察し、滑沢・鋸歯状・地図の海岸線状と分類し、複雑な形態のものは隣接面で多く見られると報告した。この拡大写生図は藤田恒太郎原書「歯の解剖学」に掲載されている。しかしながら、藤田・中山以降、歯頸線の形態に関する報告はない。今回、2000〜2011 年の間、北海道大学歯学部研究実習において学生と調査した歯頸線の形態とそれらの歯面分布について報告する。
【材料と方法】水酸化ナトリウム溶液にて浸軟処理し、カルボールフクシン染色したヒト上顎永久歯2964 歯、下顎歯 3066 歯を試料として用いた。試料は歯種鑑別後、近心・遠心・頬(唇)側・舌(口蓋)側の 4 歯面の歯頸線の形態を実体顕微鏡下で藤田・中山の報告に従い 3 型(I 型:滑沢、Ⅱ型:鋸歯状、Ⅲ型:海岸線状)に分類し、歯種・歯面別にそれらの頻度を計測した。
【結 果】上顎では切歯近心面でⅢ型が 53%の頻度で観察された。犬歯、小臼歯、並びに大臼歯では全歯面においてⅠ・Ⅱ型が 64%〜91%を占めていた。下顎では切歯隣接面においてⅢ型が 65〜70%を占めていた。犬歯、小臼歯、並びに大臼歯では全歯面においてⅠ・Ⅱ型が 65%〜92%を占めていた。
【考 察】以上の結果から、Ⅰ・Ⅱ型の歯頸線は犬歯、小臼歯、大臼歯に多く、Ⅲ型は切歯、特に下顎切歯の隣接面に多く見られる傾向が示唆された。藤田・中山(1940)は歯頸線の形態について肉眼的観察、顕微鏡的観察、発生学的観察、歯頸部う蝕との観点から詳しく考察しているが、これらは「歯の解剖学」では簡略化されている。これら考察の内容と乳歯における歯頸線についても当日簡単に紹介する。
【文 献】藤田恒太郎、中山愛一:歯頸部ニ於ケル琺瑯質境界線ノ形態學的研究.口腔病学会誌 18:355-363,1940.
SS5-4:先天性多数歯欠損患者での残存歯の形態
須田 直人
明海大 歯 歯科矯正
歯の発生は多数の遺伝子機能によって担われ、これらの遺伝子の機能異常が比較的発生初期にみられた場合に歯の先天性欠損をきたすと考えられている。このような歯の先天性欠損は、顎顔面領域にみられる最も頻度が高い先天異常の一つである。
歯の欠損が多数歯にわたる例では、咀嚼、発音、摂食といった口腔機能に重大な障害を引き起こし、患者の QOL に深刻な影響を与える。智歯を除いた6 歯以上に先天性欠損がみられる例は、先天性多数歯欠損症(oligodontia)とよばれる。このような先天性多数歯欠損症が非症候群性にみられる例では、原因となる遺伝子によって欠損する歯に歯種特異性をみることが報告されている。すなわち、MSX1 遺伝子の変異は主として大臼歯、PAX9 遺伝子では小臼歯、EDA 遺伝子では前歯の欠損を多くみる。これらの例では、歯の発生における原因遺伝子の重要性が歯種によって異なることが考えられる。
それでは、先天性多数歯欠損症において欠損を免がれた歯において、原因遺伝子の機能が発生と無関係だったと考えられるのだろうか?この点に回答を得るため、本シンポジウムでは、非症候群性の先天性多数歯欠損症において欠損を免がれた歯の特徴を検証し報告する。
テーマ2
「間葉系幹細胞の直接的/間接的な組織再生への関与を考える」
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成26年9月25日(木)13:00〜15:00
会 場
福岡国際会議場 D会場(411)
オーガナイザー
本田 雅規(日大 歯 解剖Ⅱ)
山座 孝義(九大 院歯 分子口腔解剖)
演題・演者
SS7-1:歯根膜幹細胞の多様な特性およびその有用性
和田 尚久(九大 病院 歯内治療)
SS7-2:間葉系幹細胞移植におけるレシピエントの組織・細胞の反応
山座 孝義(九大 院歯 分子口腔解剖)
SS7-3:抜歯窩および歯周組織欠損部における細胞移植の組織再生の効果
本田 雅規1、真下 貴之2、鶴町 仁奈3、秋田 大輔4、鳥海 拓1、磯川桂太郎1
(1日大 歯 解剖Ⅱ、2日大 歯 口腔外科、3日大 院歯、4日大 歯 歯科補綴Ⅱ)
SS7-4:間葉系幹細胞誘導性インプラント周囲粘膜の構築
熱田 生1、鮎川 保則1、山座 孝義2、近藤 綾介1、松浦 由梨1、古谷野 潔1
(1九大 病院 義歯補綴、2九大 院歯 分子口腔解剖)
抄 録
SS7-1:歯根膜幹細胞の多様な特性およびその有用性
和田 尚久
九大 病院 歯内治療)
根尖性歯周炎や辺縁性歯周炎は、細菌感染によって引き起こされた炎症であり、歯周組織の破壊を伴う疾患である。歯周組織の破壊範囲が大きい場合は原因除去のみでは組織再生は誘導されないため、種々の再生療法が開発されている。しかしながら、いずれも罹患部位の既存の細胞に依存して治癒を促す方法であるため、完全に再生させることは難しい。したがって、近年、細胞を用いた新たな組織再生法の確立が期待されており、歯周組織再生の移植細胞源として様々な組織由来の幹細胞や分化ステージの異なる歯根膜由来細胞が試されている。その中でも、歯根膜組織由来幹細胞(歯根膜幹細胞)は他の細胞と比較して歯周組織再生能が高いことが報告されているが、歯根膜幹細胞を歯周組織再生のための移植細胞源として用いるには、歯根膜組織が微小な組織であることや、獲得する機会が限られていることなど課題も多い。
我々は、これらの課題を克服しつつ歯根膜幹細胞の特性を生かした歯周組織再生誘導法の確立を目指して、様々な研究アプローチにより歯根膜幹細胞の特徴を検討してきた。今回は、先ず歯根膜幹細胞が持つ免疫寛容能に関する解析結果について報告する。さらに、我々は、発生の過程で神経や血管系のガイダンス因子として知られている Semaphorin3A因子が、多分化能を有するヒト歯根膜幹細胞クローンに強発現しており、歯胚発生過程では歯根膜組織由来組織である歯小嚢に局在が認められたことから、歯根膜細胞に及ぼす効果を検討したところ、幹細胞/未分化細胞へ誘導する因子である可能性を示唆する結果を得た。本シンポジウムではこれらの研究成果をご紹介しながら、多様な特性を有する歯根膜幹細胞の有用性、ならびにこれまでハードルとなっていた歯根膜幹細胞の回収機会や回収効率の低さに対してどのような解決方法が考えられるか、今後の課題と展望も含めて考察したいと考えている。
SS7-2:間葉系幹細胞移植におけるレシピエントの組織・細胞の反応
山座 孝義
九大 院歯 分子口腔解剖)
間葉系幹細胞移植による治療メカニズムとして、ドナー細胞による直接的な組織置換や組織修復、ドナー細胞によるサイトカイン分泌などのDrug Delivery System、レシピエント幹細胞の賦活化などいくつかの作用機序が考えられている。私どもはこれまでに、全身性エリテマトーデスモデルマウスのMRL/lpr マウスを用いて、間葉系幹細胞に属するヒト乳歯幹細胞やヒト過剰歯幹細胞の細胞移植実験を行ってきた。その移植効果として、間葉系幹細胞が免疫担当細胞、特にインターロイキン 17 分泌型ヘルパー T 細胞の分化・機能抑制作用を通じて、全身的な免疫過剰状態のレスキューによる自己免疫疾患の治療効果について報告してきた。この免疫抑制効果としては間葉系幹細胞が直接的または間接的に免疫担当細胞の分化や機能を調節している事が推測されている。一方、最近の我々の研究成果から、疾患により間葉系幹細胞移植の治療機序が変化する事が明らかとなった。
本シンポジウムでは、種々の疾患モデルでの研究成果から、間葉系幹細胞・間葉系幹細胞移植が備える治療効果の多様性について、議論を深めたいと考えている。
SS7-3:抜歯窩および歯周組織欠損部における細胞移植の組織再生の効果
本田 雅規1、真下 貴之2、鶴町 仁奈3、秋田 大輔4、鳥海 拓1、磯川桂太郎1
1日大 歯 解剖Ⅱ、2日大 歯 口腔外科、3日大 院歯、4日大 歯 歯科補綴Ⅱ
今回のサテライトシンポジウムでは、間葉系幹細胞の移植の効果について再考することを課題としている。そこで、この発表では、移植した細胞が標的とする細胞に分化することで組織再生・修復に関与するのか、または、移植した細胞が内在性の幹細胞を活性化および免疫寛容の働きを行うことで再生の場の環境を整える役割として働くのか、を考えるために下記の二つの実験を計画した。
マウス骨髄由来間葉系幹細胞の抜歯窩への移植:C57BL/6J マウスの左右大腿骨および脛骨を摘出し粉砕後、酵素処理にて単離された骨髄細胞からフローサイトメトリーを用い、CD45-/TER119-/PDGFRα+/Sca-1+細胞を分取する。分取した細胞をマウスの上顎第一臼歯の抜歯窩へ移植し、移植後
の組織再生をマイクロ CT による解析と組織学的解析により評価した。
脱分化脂肪細胞の歯周組織欠損部への移植:脂肪組織の約 90%の体積を占める脂肪細胞は天井培養を行うと未分化な細胞へと脱分化する。そこで、今回は、その脱分化脂肪細胞をラットの皮下組織より酵素処理にて採取、培養後にラットの歯周組織欠損部に移植した。移植後 5 週において、組織の再生をマイクロ CT による解析と組織学的に評価した。さらに、蛍光標識した細胞を移植後の細胞の動態を観察した。
これらの二つの実験から得られた結果より、細胞移植による組織の再生への効果を考察する。
SS7-4:間葉系幹細胞誘導性インプラント周囲粘膜の構築
熱田 生1、鮎川 保則1、山座 孝義2、近藤 綾介1、松浦 由梨1、古谷野 潔1
1九大 病院 義歯補綴、2九大 院歯 分子口腔解剖)
歯科インプラント治療は歯牙欠損患者に対する最も有効な補綴治療の選択肢の一つといえる。1960年代に Brånemark 博士らによって「オッセオインテグレーション」、すなわち「チタンに対する骨の結合」という概念が提唱されて以来多くの研究が重ねられ、現在のインプラント治療は確固たる地位を獲得することとなった。しかし長期経過症例に目を向けたときインプラント治療には依然解決されるべき問題が残されている。
その中で最も注目すべきはインプラント周囲軟組織の存在である。インプラント周囲における軟組織は天然歯と類似した封鎖構造を有するにも関わらず明らかに脆弱である。そのためインプラント周囲粘膜で生じた炎症は、天然歯周囲と比較して容易に骨へと波及しインプラントの支持骨を吸収させる。つまり軟組織において細菌に対する免疫的、物理的な局所防御の改善こそが周囲炎や粘膜退縮を防止し長期にわたるインプラント治療の成功に貢献出来ると考える。
実際インプラント周囲における軟組織封鎖性の向上を目指した研究成果は数多く存在する。ただコスト面や安全性の点で臨床応用まで多少の距離があるのも事実である。そこで我々は、間葉系幹細胞(MSC)を用いることによりインプラント治療をより確実なものにすることを目指す。
MSC はオッセオインテグレーションが提唱された時期とほぼ同じ 1960 年代に同定された細胞で、優れた多分化能と増殖能を有する幹細胞の一種である。特に分化の幅は広く、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞など様々であり、組織再生に有効な選択肢である。近年では顎骨骨折や歯周病由来の骨欠損、顎補綴時など口腔領域での再生治療として用いられるようになった。そして現在では、幹細胞の新たな投与効果として免疫細胞の制御能が明らかとなった。
これにより膠原病などの自己免疫疾患、大腸性ポリープなどの炎症、さらには乳癌など悪性腫瘍の治療にも効果が示されている。このような MSC の特徴的な治療効果がインプラント周囲軟組織の封鎖性向上にも活用出来ないものであろうか。今回はその可能性について発表させていただく。
テーマ3
「歯根と歯周組織発生の分子機構解明の新たなる展開と歯科疾患へのアプローチ」
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成26年9月25日(木)15:20〜17:20
会 場
福岡国際会議場 D会場(411)
オーガナイザー
原田 英光(岩医大 解剖 発生・再生)
岡 暁子(福歯大 成育小児歯科)
演題・演者
SS8-1:遺伝性疾患における歯根の異常
須田 直人(明海大 歯 歯科矯正)
SS8-2:歯根発生メカニズムの新規仮説と歯根形態異常
熊上 深香、大津 圭史、藤原 尚樹、原田 英光(岩医大 解剖 発生・再生)
SS8-3:歯根発生過程における細胞骨格制御因子の役割とその異常
福本 敏1、日野 綾子1、山田 亜矢1、大津 圭史2、新垣真紀子1、齋藤 幹1、中村 卓史1、原田 英光2
(1東北大 院歯 小児発達歯科、2岩医大 解剖 発生・再生)
SS8-4:ヘルトウィッヒ上皮鞘の発育と神経ペプチド
川島 伸之 (医科歯科大 院医歯 歯髄生物)
SS8-5:歯周組織発生制御における HERS の新規役割
岡 暁子1、板家 智1、吉良 廸子1、藤原 尚樹2、原田 英光2(1福歯大 成育小児歯科、2岩医大 解剖 発生・再生)
抄 録
SS8-1:遺伝性疾患における歯根の異常
須田 直人
明海大 歯 歯科矯正
歯冠の異常に比較して歯根の異常に関する報告は少ない。おそらく口腔内に萌出し直接可視化が可能な歯冠に比べ、顎骨内に埋入され X 線画像を通じて認識されることが多い歯根は、その大きさや長さ・形態を正確に把握することが困難なためと考えられる。
また歯の発生に関する基礎研究において、歯冠の発生や形成に比較して、これらの点を歯根で検討したものは多くない。歯根に比べ、咬頭や窩といった複雑な形態をみる歯冠の方が研究対象として興味深く感じる研究者が多いのかもしれない。
歯冠と歯根は、相互作用を持ちながら進行する一連のプロセスにより形成され、歯冠形成期においても歯根発生は開始していると考えられる。そのため、歯冠と歯根の発生や形成期を明確に分けることは困難であろう。
上記のような特徴を持った歯根に関して、一歯あるいは数歯に限定した異常については局所的要因が大きいと考えられる。一方、両側性であったり、比較的多数歯にわたる歯根異常をみる例では、遺伝性疾患や全身疾患の一表現型として発症する例が多い。
本シンポジウムでは、歯根の形態異常を伴う種々の遺伝性疾患を概説する。また歯根異常歯における歯冠形態に着目し、歯根と歯冠の関連性に関し臨床的な考察を加える。
SS8-2:歯根発生メカニズムの新規仮説と歯根形態異常
熊上 深香、大津 圭史、藤原 尚樹、原田 英光
岩医大 解剖 発生・再生
歯冠の形態形成のメカニズムは世界中の多くの研究によって解明が進められてきた。その一方で、歯根および歯周組織発生については研究があまり進んでいないのが現状であり、さらに歯根の形態や歯周組織に関わる先天性疾患の原因も不明な点が多い。
これらについては、1)歯の発生過程で歯冠から歯根へと形態的変化がなぜ生じるのか。2)歯根象牙質の形成を誘導するヘルトウィッヒ上皮鞘(Hertwig's epithelial root sheath:HERS)はどのように発生するのか。3)HERS の増殖と伸張、さらに断裂とマラッセの上皮遺残(epithelial rests of Malassez :ERM)の形成はどのようなメカニズムなのか。4)歯小嚢細胞の分化と歯根象牙質表面への遊走はどのようなシグナルが働いているのか。5)顎骨と歯根の成長との相互関係について。などの疑問を上げることができる。そこで我々は、エナメル器による歯冠形成から HERS の発生に至るまでの間の増殖因子の発現パターンの変化、それに伴う増殖細胞の局在の違いについて検索し、さらには様々な方法のリアルタイムイメージングを用いて細胞の動きを詳細に観察した。その結果、歯冠形成は歯乳頭の増殖因子発現による内エナメル上皮の増殖誘導によって行われるが、歯根の発生に移行するには歯乳頭での増殖因子の発現低下と共に、歯小嚢誘導による外エナメル上皮の増殖と移動が重要であることが明らかとなった。また HERS は、ビメンチン等の間葉系細胞マーカーの発現を示す細胞も含まれているヘテロな細胞集団であり、これらの細胞が上皮間葉転換を示す結果も得られた。このシンポジウムでは HERSの起源やその細胞の特殊性、ならびに顎骨と歯根ならびに歯周組織発生との関連について議論することで、歯根と歯周組織疾患の原因究明につなげていきたいと考えている。
1)Kumakami-Sakano M, Harada H et al., Exp Cell Res.. 2014 Feb 18 E-pub
SS8-3:歯根発生過程における細胞骨格制御因子の役割とその異常
福本 敏1、日野 綾子1、山田 亜矢1、大津 圭史2、新垣真紀子1、齋藤 幹1、中村 卓史1、原田 英光2
1東北大 院歯 小児発達歯科、2岩医大 解剖 発生・再生
歯根の形成は、歯原性上皮細胞のうちヘルトリッヒの上皮鞘の根尖方向への移動により制御されている。上皮細胞の移動には、インテグリン等の接着分子の細胞外基質への結合と、接着分子の細胞内領域における接着斑の形成や F-アクチンなどの細胞骨格の形成や維持が重要であることが知られているが、歯根形成過程における機能については未だ不明な点も多い。
我々は β1 インテグリンが、歯原性上皮細胞の細胞極性の決定や分化における役割を明らかにし、上皮特異的な β 1 インテグリンの欠損が、部分的なエナメル質形成不全や歯の萌出の遅延を生じることを明らかにした。そこで、β 1 インテグリンの細胞内領域に結合し、F-アクチンと結合するアダプター分
子フィラミンの、歯根形成における役割について解析を進めた。
フィラミン分子群は、A から C までの 3 分子が同定されているが、この中でフィラミン-A(FLNA)は、ヘルトリッヒの上皮鞘が形成される領域の歯原性上皮細胞に発現し、歯原性上皮細胞株にshRNA-FLNAを過剰発現した歯原性上皮細胞株においては、細胞の移動が抑制された。また上皮細胞内では、細胞膜直下に存在することが明らかとなった。F-アクチンの線維は、細胞骨格の形成に重要な因子であるが、歯原性上皮細胞においては、細胞の外側から核方向へ線維の移動が観察されるが、shRNA-FLNA過剰発現においては、その移動が遅延した。
さらに FLNA 遺伝子を変異した小児において、乳歯および永久歯の歯根形成が抑制され、短根を示す表現系を認めた。また指の癒合(合指症)や爪の異常、頭蓋骨の形成異常、さらに歯においては、薄いエナメル質(低形成型エナメル質形成不全症)を有していること明らかとなった。以上の結果から、細胞骨格制御因子の 1 つである FLNA は、歯原上皮細胞の細胞移動を制御し、これまで知られていない新たな歯根形成制御因子として機能していることが明らかとなった。
SS8-4:ヘルトウィッヒ上皮鞘の発育と神経ペプチド
川島 伸之
医科歯科大 院医歯 歯髄生物
歯根の形成は歯冠形成がほぼ終了した後に開始されるが、その形成過程はヘルトウィッヒ上皮鞘(Hertwigʼs epithelial root sheath:HERS)により制御されている。HERS は歯胚のサービカルループにおける内外エナメル上皮が癒合した 2 層構造の組織で、げっ歯類においては生後 5〜7 日より形成が開始され、生後 14 日でその長さがピークとなる。その後、退縮しその残渣が歯根膜内にてマラッセの上皮遺残(epithelial rests of Malassez :ERM)として観察される。ところで、歯の発生と神経支配の発達は深く相関している。歯の発生初期の帽状期において、歯乳頭下に神経叢が形成され、歯の発生が進むにつれ歯小嚢内への神経分布が広がる。歯根形成期において、根尖部の歯髄およびその周囲組織においても神経は分布している。これまでに、substanceP(SP)がその特異的受容体である neurokinin1(NK1)受容体を介して歯の形成に関与しているとの報告がある。また、NK1 のみならず、calcitoningene-related peptide(CGRP)の受容体の発現も臼歯発生過程で根尖部の歯髄およびその周囲組織に認められている。これらの報告は、種々の神経ペプチドが歯根形成に関与している可能性を示唆している。また、vasoactive intestinal peptide(VIP)は小腸、胃および脳、脊髄、下垂体といった種々の神経組織に広範に分布している神経ペプチドで、それぞれの組織において生理学的な機能を担っている。口腔領域においても VIP 陽性神経の分布が報告されており、たとえば歯髄においては象牙芽細胞層およびその直下あるいは歯髄内の血管周囲に認められる。また、臼歯部分岐部の歯根膜にも局在が報告されている。我々は VIP 陽性神経線維が HERS 周囲に存在し、VIP 特異的受容体である VPAC1 がHERS に局在することを明らかにした。また、VPAC1 発現の増強が HERS の成長と相関していることも確認した。本講演では、VIP をはじめとする神経ペプチドの HERS の発達および歯根の形成過程における役割について紹介する。
SS8-5:歯周組織発生制御における HERS の新規役割
岡 暁子1、板家 智1、吉良 廸子1、藤原 尚樹2、原田 英光2
1福歯大 成育小児歯科、2岩医大 解剖 発生・再生
ヘルトヴィッヒ上皮鞘(HERS)は、歯根形成期、歯乳頭と歯小嚢という歯原性間葉組織の中で、歯根象牙質形成とセメント質および歯根膜組織形成とをみごとにオーガナイズする歯原性上皮である。これまでの HERS に関する研究は、歯根形成における役割に多くの注目が集まってきた。
我々は、歯根膜に特徴的に存在しているオキシタラン線維と呼ばれる微細繊維の束を構成するFibrillin蛋白に着目し、マウス歯の発生における免疫組織学的手法を用いた発現解析を行ってきた。その中で、Fibrillin-1 は、断裂した HERS の間の歯根象牙質表面から発現を開始すること、Fibrillin-2 は、歯根形成期の HERS 周囲を取り囲むように存在していることをとらえ、HERS は、歯根膜の線維形成においても重要な働きを担っているのではないかと考えはじめた。
そこで、マウスHERS由来の細胞株であるHERS01a 細胞を用いて、in vitro での実験を開始した。HERS01a 細胞は、血清を含まず、FGF、EGFのみを添加した培地では、fibrillinを発現しない。
しかしながら、血清やTGFBetaを添加すると、fibrillinの発現が誘導されることがわかった。つまり、HERSを構成する上皮細胞は、周囲環境によって、その性格を変化させることが示唆された。さらに、ヒト歯根膜組織での Fibrillin 蛋白発現も調べたところ、Fibrillin 線維がマラッセ上皮遺残周囲にも密に存在していることがわかった。マラッセ上皮遺残を構成する上皮細胞は、細胞増殖能を有することや、セメント質、歯根膜組織維持に関与していることなどが報告されていることから、我々のヒト歯根膜組織での観察結果は、これらの調節に、Fibrillin が関与している可能性を示唆している。
本シンポジウムでは、HERS が歯根膜形成で果たしている役割や、歯根完成後も歯根膜に一部残存することが歯根膜組織の維持にどのように関わっているのかを、Fibrillin 分子に着目した研究をもとに考察したい。
第16回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
(第55回歯科基礎医学会学術大会・総会サテライトシンポジウムとして開催します)
テーマ
『口腔組織幹細胞の未来志向』 ヒト歯髄細胞は臨床応用可能か?
オーガナイザー
本田 雅規(日大 歯 解剖 II)
山座 孝義(九大 院歯 分子口腔解剖)
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成25年9月20日(水)13:00~15:00
会 場
岡山コンベンションセンター G 会場(展示ホール)
演題・演者
SS5-1:歯髄幹細胞を用いた歯髄・象牙質再生治療の実用化に向けて
中島美砂子(国立長寿医療研究セ 歯科口腔先進医療開発セ)
SS5-2:再生医療資源としての歯髄細胞利用
手塚 建一(岐阜大 院医 組織形成)
SS5-3:ヒト歯髄幹細胞の無血清培養上清を用いた難治性全身疾患に対する新しい再生療法の開発
山本 朗仁(名大 院医 頭頸部・感覚器外科・歯科口腔外科)
SS5-4:凍結ヒト歯髄組織の臨床応用の可能性
山座 孝義(九大 院歯 分子口腔解剖)
第15回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
(第 23 回国際形態科学シンポジウム (ISMS 2013)Mini-symposiumとして開催します)
テーマ
Morphogenesis, Development and Regeneration of Orofacial Structures
座 長
Yoshiro Takano (Japan) and Hayato Ohshima (Japan)
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成25年9月11日(水)15:00~17:30
会 場
Afternoon Session (Room A) (朱鷺メッセ)
演題・演者
15:00 Contribution of stem cell niches in the dental pulp to regeneration of dentin-pulp complex.
大島 勇人 Hayato Ohshima (Japan)
15:30 Specific cell isolation from primary cultures
中原 貴 Taka Nakahara (Japan)
16:00 Differentiation of iPS Cells into odontogenic cells
大津 圭史 Keishi Otsu (Japan)
16:30 Dynamic patterning of ameloblast cell modulation during enamel maturation - why and how?
髙野 吉郎 Yoshiro Takano (Japan)
17:00 A feedback loop between Shh, Sostdc1 and Wnt signaling for patterning of the teeth.
Sung-Won Cho (Korea)
第14回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
(第118 回日本解剖学会総会・全国学術集会シンポジウムとして開催します)
テーマ
齧歯類切歯の恒常的成長を支えるエナメル上皮幹細胞を考える
企画・座長
原田英光(岩手医科大学 解剖学講座発生生物・再生医学分野)
大島勇人(新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野)
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成25年3月28日(木)13:30~15:30
会 場
サンポートホール高松・かがわ国際会議場 ホール棟6F:E会場(61会議室)
演題・演者
原田英光
岩手医科大学解剖学講座 発生生物・再生医学分野
齧歯類常生歯のエナメル上皮幹細胞の局在と歯の形態との関連:比較解剖学的考察
大島勇人
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野
山城 隆
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野
エナメル上皮幹細胞の分裂後の動態を制御する細胞走化性因子の役割
田巻玉器
北海道医療大学 組織学講座
Incisor in Mouse and Gerbil; how can we consider about incisor in control?
Han-Sung Jung
韓国延世大学校歯科大学 解剖・発生生物学分野
抄 録
Introduction-エナメル上皮幹細胞研究の国際的潮流と今後の展望
原田英光 藤原尚樹 大津圭史
岩手医科大学解剖学講座 発生生物・再生医学分野
齧歯類切歯は,恒常的に成長し続ける器官として,組織幹細胞の増殖や分化,幹細胞の特(stemness)を解析するモデルとして知られている。我々は,この切歯の形成端上皮apical budに歯の上皮幹細胞が存在することや(Harada et al., J. Cell Biol., 1999),それを維持する重要な分子が間葉の分泌する線維芽細胞増殖因子(Fgf)-10であることを報告してきた。Kleinらのグループは,幹細胞がapical budの外エナメル上皮側に局在し,E-cadherin, Shhによって維持されていること(Development. 2010 , 2011, Dev Biol. 2012), Thesleff らはSox2陽性細胞がエナメル上皮の幹細胞であること(Dev Cell. 2012) を示す論文を相次いで発表している。しかし,幹細胞を維持するapical bud内の詳細な細胞環境や分子メカニズムについては未だ釈然としない,曖昧な理解のま まである。それは,まだ組織幹細胞の本質を探り当てていないことに他ならない。今回,我々は Rhoシグナルが細胞骨格を制御しながら,上皮間葉転換や幹細胞の未分化維持因子の発現に関わっていることを述べる。残りの4人のシンポジストには,組織幹細胞のモデルとしての歯の研究における最近のトピックについて発表してもらい,それらを統合して組織幹細胞の実体にせまるような議論にしたいと考えている。我々が歯を再生させる上で取り組まねばならない問題がまさにエナメル上皮幹細胞を取りまく「細胞外微小環境」の詳細な解析と実現であり,このシンポジウムによって幹細胞を用いた歯の再生研究を加速させたい。
齧歯類常生歯のエナメル上皮幹細胞の局在と歯の形態との関連:比較解剖学的考察
大島勇人
新潟大 院医歯学総合 硬組織形態学
臼歯歯胚エナメル器内外エナメル上皮の折れ返りの部位はcervical loop (CL) と呼ばれる。恒常的に成長する齧歯類切歯の形成端エナメル上皮でも、内外エナメル上皮が折り返るため臼歯同様にCLと呼ばれているが、切歯形成端の横断連続切片の観察は臼歯と異なり、切歯CLは蕾状期から帽状期へと連続した歯胚構造を示しており、我々は臼歯のCLとは区別する意味でapical bud (AB) と呼ぶことを提唱している。本講演では、このABが機能的にも臼歯のCLとは異なる組織構造であることを明確にするため、AB内でのlabel-retaining cells(LRCs)の局在、臼歯歯胚のエナメル結節マーカーのABでの発現パターン、常生歯であるモルモット臼歯の持続的成長と複雑な歯冠形成との関係を示し、比較解剖学的考察を加えたい。生後マウス切歯横断切片において、LRCsが局在するAB内帽状期歯胚様構造の内エナメル上皮から星状網にかけてエナメル結節様の上皮細胞集団が観察され、同部位にはFgf4、Wnt10b、P21の発現が観察された。したがって、生後マウスの切歯ABにおいてエナメル結節を含む歯胚構造が恒久的に維持されていることが示唆された。モルモット臼歯水平断切片では、下顎臼歯では頬側にエナメル質、舌側にエナメル質とセメント質をもつS字状の咬合面形態を示した。さらに、形成端には、LRCsを含む上皮細胞塊であるABが4つ存在し、モルモット臼歯の持続的成長と複雑な歯冠形態との関係が明らかとなった。
山城 隆
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野)
RUNXファミリーは, Runtドメイン遺伝子ファミリーに属する転写因子であり、αおよびβサブユニットからなるヘテロ二量体で,ほかの転写因子や補助因子と結合して標的遺伝子の転写活性を制御する。哺乳類では、3種類のαサブユニット、Runx1, Runx2, Runx3が同定されており、造血・骨形成といった特定の細胞の分化や増殖、また癌化の制御に関わる重要な働きを担っている。一方、βサブユニットは哺乳類ではCbfb の1種類が存在し,それ自体ではDNA結合しないものの,αサブユニットのRuntドメインに結合することにより,αサブユニットのDNA結合能が増強される。我々の研究室では、上皮特異的にCbfbをノックダウンン(K14-Cre; Cbfb fl/fl)したマウスを用いて、上皮のRunxシグナリングが歯の器官形成において果たす役割を検討した結果、このマウスの切歯の伸長とエナメル質の形成が阻害されることを見出した。本講演では、このRunxシグナルがFgfシグナルとShhシグナルを介して、いかに幹細胞の維持と幹細胞から派生する上皮の増殖と分化に関わる領域の維持を制御するのか、最新の知見を交えて紹介したい。
エナメル上皮幹細胞の分裂後の動態を制御する細胞走化性因子の役割
田巻玉器1 ,大津圭史2,原田英光2, 長澤丘司3, 入江一元1,
(1北海道医療大学 組織学講座)(2岩手医科大学解剖学講座 発生生物・再生医学分野)
マウスの切歯は常に伸び続けている。歯の上皮系幹細胞は切歯の形成端部に存在する球状の上皮組織 (apical bud:AB) に存在し、エナメル質を形成する細胞を恒常的に供給する。 歯の幹細胞がいつ、どこで分裂し、どの方向に向かって移動するかは歯の幹細胞が維持されている微小環境(ニッチ)を理解する上で非常に興味深い。我々はABで特異的に発現しているRNAについて網羅的解析を行い、細胞走化性因子としてよく知られるCXCR4の発現を認めた。CXCR4はGタンパク結合型7回膜貫通型受容体の一つであり、その受容体はCXCL12である。CXCL12-CXCR4シグナルは炎症系細胞の遊走因子として広く知られ、生物の発生メカニズム、幹細胞ニッチの維持に関わる重要な因子として関心が高まっている。次に我々はLive cell imagingを用いてAB内の細胞動態について検討した。その結果、AB内部の細胞はランダムに星状網内部を動き回っている様子をとらえた。また細胞分裂時には、非対称分裂をした娘細胞の1つが同部位に残り、もう一方が基底細胞層へ移動する様子が観察された。In situ hybridization の結果からはCXCR4,CXCL12 mRNAの発現はapical bud内部の主にTA領域で共存していた。またCXCR4欠損マウスのABには上皮細胞塊が存在していた。さらにloss and gain of function について、ABから樹立した細胞株:mHAT9aを用いて検討した結果を加え、CXCL12とCXCR4の歯の幹細胞ニッチにおける機能について報告する。
Incisor in Mouse and Gerbil; how can we consider about incisor in control?
Han-Sung Jung
韓国延世大学校歯科大学 解剖・発生生物学分野
Incisor in rodent, which has been considered to be stem cell based studies, is widely carried out recently. Certainly, it is wonderful system to study and examine the capacity of teeth and the extent of enamel deposition. Furthermore, orchestrating signaling networks is surely integrated with its own growth.
第13回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
(第118 回日本解剖学会総会・全国学術集会研究集会・懇話会として開催します)
テーマ
細胞を制御する細胞外微小環境の役割
企画・座長
原田英光(岩手医科大学 解剖学講座発生生物・再生医学分野)
大島勇人(新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野)
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成25年3月27日(木)16:00~18:00
会 場
サンポートホール高松・かがわ国際会議場 ホール棟3F:A会場(大ホール)
演題・演者
1.歯胚構築における細胞外マトリックス・プロテオグリカンの動的機能
依田浩子
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野
雪田 聡
松本歯科大学 口腔解剖学第2講座
柴田俊一
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 顎顔面解剖学分野
4.硬組織の発生・修復における細胞外基質リモデリングと石灰化
笹野泰之
東北大学 大学院歯学研究科 顎口腔形態創建学分野
抄 録
1.歯胚構築における細胞外マトリックス・プロテオグリカンの動的機能
依田浩子
新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野
細胞は周囲に細胞外マトリックス(ECM)を分泌し、そこに必要なシグナル分子やプロテアーゼを配備することにより細胞外環境を形成する。歯胚発育過程においては、ECMの主体を占めるのがプロテオグリカンであり、コア蛋白質ならびに糖鎖に結合する種々のシグナル分子と特異的に結合ないしは解離しながら、それらの時空間配置を調節し、細胞内シグナリングを制御して歯胚細胞の増殖および分化を誘導していると想定される。
基底膜型ヘパラン硫酸プロテオグリカン・パールカンは基底膜を構成する主要なECMで、そのコア蛋白質ならびにヘパラン硫酸鎖には、BMP、WNT、FGFなどのシグナル分子が特異的に結合し、形態形成に必要な細胞外環境を形成している。マウス歯胚組織では、パールカンは基底膜のみならず、歯髄組織ならびに星状網の細胞間隙にきわめて豊富に存在しており、エナメル器構造の形成を制御する主要なECMであると考えられた。さらに、上皮細胞過剰発現系パールカントランスジェニックマウスでは、胎生期臼歯の星状網細胞間隙の拡大とエナメル器内の細胞分化の乱れ、臼歯歯冠形態の鈍縁化および歯根離開がみいだされた。
従って、パールカンは歯胚発育過程において、巧妙に時間的発現調節がなされながら、歯の発育を制御する重要なシグナル分子との相互作用により、時期特異的な細胞外環境を形成しているものと推測された。本講演では、パールカンを中心に、歯胚構築におけるプロテオグリカンの機能について概説したい。
雪田 聡
松本歯科大学 口腔解剖学第2講座
歯髄組織は、象牙芽細胞層や象牙芽細胞層下層(Subodontoblastic layer)、歯髄中心部からなり、各領域の性状を維持するためには細胞外環境が細胞の分布や機能に重要であることが推測されるが、プロテオグリカンの歯髄における局在や機能については不明な点も残されている。我々はグリコサミノグリカン鎖およびプロテオグリカン(PG)のコアタンパクの局在を免疫組織学的に検討し、これらの因子の歯髄における役割を明らかにする事を目的とした。
4週齢マウスの下顎臼歯を用いて免疫組織学的な検討を行った結果、コンドロイチン硫酸(CS)およびヒアルロン酸(HA)、CSPGであるバーシカンの免疫反応は下顎臼歯の歯髄中心部に強く認められる一方、ヘパラン硫酸(HS)およびHSPGであるパールカンの局在は歯髄中心部ではほとんど認められず、Subodontoblastic layerにおいて強い傾向が観察され、この領域で何らかの役割を担うことが予想された。HSPGはFGFなどの成長因子と結合することが報告されているため、シグナル伝達因子の局在を検討したところ、FGFシグナルに関与するErk1/2の局在がHSと類似していた。さらに、培養歯髄細胞にFGF2を添加すると、神経栄養因子であるGDNFの発現が誘導され、これはヘパリンの添加により相乗的に上昇した。また、GDNFはパールカンやErk1/2と同様にSubodontoblastic layerに局在することも確認した。以上の結果から、パールカンはFGF-Erk1/2シグナルによる歯髄細胞のGDNF発現誘導を増強することで、Subodontoblastic layerに存在する神経細胞の維持に関与する可能性が考えられた。
柴田俊一
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 顎顔面解剖学分野
Verisicanは非軟骨型のコントドイチン硫酸プロテオグリカンで、主に軟骨に存在するAggrecanや脳に存在するNeurocan、Brevicanらと同様にヒアルロン酸(HA)結合能を持ち、これらはhyalectan あるいはlecticanファミリーと呼ばれている。Versicanは軟骨形成前の間葉凝集に強く発現されるPG-Mと同種の分子であることが明らかになり、以後様々な組織、特に胎生期の組織において細胞接着、分化、移動あるいはスペースの確保等の機能を有するとされている。マウス歯胚の形成過程においては胎齢12日の上皮肥厚にmRNAの発現が認められ、以後鐘状期に到るまで上皮側と間葉側で一過的にmRNAの発現が継続する。器官培養と35Sによるmetabolic labelingで、合成されたプロテオグリカンを解析すると、上皮組織、間葉組織どちらもVersican type の大型プロテオグリカンを合成していることが明らかとなった。β-xyloside を培地に添加するとこの分子を基点として異常なグリコサミノグリカン鎖が合成され、結果として正常なPG合成を阻害することが可能となる。β-xylosideを器官培養系に添加すると咬頭形成の強い抑制が認められた。また下顎頭軟骨の器官培養系にこの分子を添加すると、下顎頭軟骨の形成も強く抑制されることも明らかとなった。以上のことから正常なVersican合成は歯胚および下顎頭軟骨の形成、発育に重要な役割を果たしていることが示唆された。
4.硬組織の発生・修復における細胞外基質リモデリングと石灰化
○笹野泰之(1)、逸見晶子(1),大方広志(1)(2)、三上靖人(1)、中村恵(1)
東北大学大学院歯学研究科 顎口腔形態創建学分野(1)、歯内歯周治療学分野(2)
骨、象牙質およびセメント質の基質はコラーゲンと組織特徴的な細胞外基質タンパクで骨組みが作られ、ヒドロキシアパタイトを基本型とするリン酸カルシウム結晶が沈着して石灰化している。発生や修復の途上では軟らかいこれら硬組織の基質が成熟に伴い硬く石灰化するメカニズムは不明である。我々は、硬組織の発生・修復の過程で、未熟な基質を特徴づけるタンパクが除かれることで石灰化が促されると仮説し、研究を進めてきた。今回は、主に骨の発生・修復に関する研究を紹介させていただきたい。
ラット胎児の下顎骨発生過程と生後12週齢ラット頭頂骨規格化骨欠損実験系の骨修復過程を検討した。発生・修復に伴い形成される骨について、エネルギー分散型X線分析とマイクロCTを利用して石灰化を解析した。また、MMP(matrix metalloproteinases)について、in situhybridizationとリアルタイムPCRで発現を、またin situ zymographyで酵素活性を検討した。
骨の発生・修復過程で、カルシウム濃度の上昇とリン酸カルシウム結晶の成熟が認められた一方で、有機質の指標である炭素の減少が示唆された。また、骨芽細胞と骨細胞はMMP2,8,13を発現し、骨基質にはMMPの活性が示された。 骨発生・修復過程の初期に含まれる未熟型骨基質タンパクを骨芽細胞と骨細胞がMMP等の酵素を利用して分解し、基質をリモデリングして石灰化を促すことが示唆された。
第12回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム
(第54回歯科基礎医学会学術大会・総会サテライトシンポジウムとして開催します)
テーマ
テーマ1
口腔領域におけるiPS細胞研究の現状と展望
概要
iPS細胞は成体組織の細胞から作製できる多能性幹細胞であり,倫理的問題をクリアできる細胞として難治性疾患の原因究明や治療法開発のin vitroモデル,さらには再生医療などへの応用が期待されている。
口腔領域に関する研究では,口腔が比較的細胞を採取しやすい場所であると同時にiPS細胞を作製する上で作製効率の高い組織が多く存在することや,歯や歯周組織の再生にiPS細胞を用いる試みが発表されている。
iPS細胞は,日本から発信された世界的研究の一つでありながら,国際的にも競争の激しいテーマとなっており,日本が取り残されていくのではないかと危惧されている。
その中で,日本から発信している口腔領域でのiPS細胞研究は,世界的にも注目を浴びており,また歯の再生は,iPS細胞による器官再生の先駆けとなることが期待できる。
このような背景 から,iPS研究の現状を総括すると共に,口腔組織の特殊性を考慮したiPS細胞の作製に関する技術からiPS細胞を口腔組織の細胞に分化誘導する技術についての研究内容を発表していただき,歯科医学におけるiPS細胞研究に関する現状と将来展望を議論してもらう。
本シンポジウムが,国民的知名度のあるiPS細胞研究を通じて,歯学研究を活性化する一助となることを期待している。
企画・座長
原田英光(岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野)
江草 宏(大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野)
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成24年9月14日(金)13:00~15:00
会 場
奥羽大学 http://www.ohu-u.ac.jp/
演 題
原田英光
岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野
2.再生医療を見据えた人工多能性幹細胞樹立及び培養システムの開発
三浦巧
国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター
江草 宏
大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野
4.口腔組織からのiPS細胞の作製とその歯科領域への利用(小児歯科の観点から)
斎藤一誠
新潟大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野
5.iPS細胞から象牙芽細胞への分化誘導技術の開発と歯の再生への応用
大津圭史
岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野
6.iPS細胞からエナメル芽細胞への分化誘導技術の開発と歯の再生への応用
新垣真紀子
東北大学大学院歯学研究科小児発達歯科学分野
抄 録
○原田英光
岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野
概要:iPS細胞は成体組織の細胞から作製できる多能性幹細胞であり,倫理的問題をクリアできる細胞として難治性疾患の原因究明や治療法開発のin vitroモデル,さらには再生医療などへの応用が期待されている。口腔領域に関する研究では,口腔が比較的細胞を採取しやすい場所であると同時にiPS細胞を作製する上で作製効率の高い組織が多く存在することや,歯や歯周組織の再生にiPS細胞を用いる試みが発表されている。iPS細胞は,日本から発信された世界的研究の一つでありながら,国際的にも競争の激しいテーマとなっており,日本が取り残されていくのではないかと危惧されている。その中で,日本から発信している口腔領域でのiPS細胞研究は,世界的にも注目を浴びており,また歯の再生は,iPS細胞による器官再生の先駆けとなることが期待できる。このような背景から,iPS研究の現状を総括すると共に,口腔組織の特殊性を考慮したiPS細胞の作製に関する技術からiPS細胞を口腔組織の細胞に分化誘導する技術についての研究内容を発表していただき,歯科医学におけるiPS細胞研究に関する現状と将来展望を議論してもらう。本シンポジウムが,国民的知名度のあるiPS細胞研究を通じて,歯学研究を活性化する一助となることを期待している。
2.再生医療を見据えた人工多能性幹細胞樹立及び培養システムの開発
—異種成分を含まないコンディションでのヒトiPS細胞樹立—
○三浦 巧、町田正和、細田明広、大倉隆司、梅澤明弘、阿久津英憲
国立成育医療研究センター研究所 再生医療センター
ヒト細胞を異種成分にさらすことは、非ヒト病原体の感染や移植細胞の免疫拒絶といったリスクを増大させるため、安全にiPS細胞を再生医療へ応用するには、培養試薬から異種成分を除去する必要がる。そこで、本研究では、ヒトiPS細胞樹立の段階から異種由来物の影響を排除するために、フィーダー細胞としてヒト組織由来フィーダー細胞を樹立し、異種由来成分を排除したヒトiPS細胞培養液の確立および異種成分を使用しない細胞継代法の開発を行った。次に、この完全ヒト型培養システムを用いて、ヒトiPS細胞を樹立し、長期間培養(少なくとも50継代以上)したところ、未分化状態を維持したまま安定に培養することが可能であることが観察された。更に、異種由来物を排除した培養環境のヒトiPS細胞に与える長期的な影響を評価するために、染色体核型解析によりゲノム安定性を解析した結果、すべてのヒトiPS細胞において異常は認められなかった。また、細胞特性評価に関して、ヒトES細胞未分化性維持と多分化能性の保持について解析を行った結果、未分化マーカーの発現はRT-PCR法および免疫組織化学法により陽性であることが確認できた。さらに、これらヒトiPS細胞はテラトーマ形成能を有しており、分化多能性を十分に保持していることも判明した。この完全ヒト型培養システム下で培養されたヒトiPS細胞には、移植医療の際の免疫拒絶反応を誘引する可能性がある動物由来のシアル酸(Neu5Gc)の混入がないことも見いだした。さらに、このヒトiPS細胞は異種成分を除去した培養環境下においても、神経系細胞へ分化することが観察された。以上の結果より、本研究で開発した完全ヒト型培養システムは、安全で高品質なヒト幹細胞再生医療を提供する基盤作りに大きく貢献できるものと確信している。
江草 宏
大阪大学大学院歯学研究科 クラウンブリッジ補綴学分野
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は,体細胞に数個の遺伝子を導入することでその記憶を初期化した多能性幹細胞である。口腔粘膜の歯肉は歯科治療の過程で切除される機会の多い組織であり,一般的に切除歯肉は廃棄されている。我々は,歯肉を用いることで,容易に質の高いiPS細胞が樹立可能であることを見出した。また,歯肉線維芽細胞の初期化効率は,従来iPS細胞作製に用いられている皮膚線維芽細胞と比較して高く,この細胞を用いることで癌遺伝子c-Mycあるいはウイルスベクターを用いずにiPS細胞が樹立可能であることを明らかにしている。
歯肉から樹立したマウスiPS細胞は成熟した骨芽細胞への分化能を示し,化合物ライブラリースクリーニングにより得た骨芽細胞分化促進化合物を用いることで,腫瘍化を回避しながらその分化をより確実に誘導することが可能であった。また,ヒト歯肉線維芽細胞は,iPS細胞の未分化維持培養に必要なフィーダー細胞として機能することが明らかとなり,従来のiPS細胞の培養に用いられているマウス由来のフィーダー細胞の使用を回避する方法として注目している。
採取およびその初期化誘導が容易な歯肉線維芽細胞から作製されたiPS細胞は,将来的にはさまざまな組織の再生医療への応用が期待されるだけでなく,Personalized Dentistryに必要となる病態・個体差解明,新薬探索,毒性評価などの技術開発に有用なツールとなる可能性がある。本発表では,歯肉由来iPS細胞の樹立およびその歯科医学への応用について言及しつつ,今後の課題と将来の展望について考察したい。
4.口腔組織からのiPS細胞の作製とその歯科領域への利用(小児歯科の観点から)
斎藤一誠
新潟大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野
歯科臨床において、上下顎20本もある抜去乳歯は子どもの記念に保存する以外はほとんど廃棄されてきたが、近年の再生医療研究の隆盛に伴い、抜去乳歯の有効性が注目されている。そこから歯髄幹細胞が豊富に得られるのではないか、それをオーダーメイド医療として利用できないか(teeth bank)という見方が広まり、抜去乳歯の効率的な利用性、応用性が検討されている。しかし、歯髄幹細胞の有効利用には障害がいくつか存在する。脱落直前の乳歯から取得できる歯髄細胞は僅かであり、また口腔細菌感染の可能性があることから、初代歯髄細胞を良好に培養する系が整っていない。歯髄幹細胞の数の問題は、それをiPS細胞化すれば解決できる可能性がある。実際、永久歯歯髄細胞からのiPS化は既に岐阜大で達成されている。この成果は、研究面で興味深い知見をもたらした。即ち、表皮線維芽細胞に比べ、歯髄細胞からは103倍ほどの高率でiPS細胞が得られたという点である。歯髄細胞は線維芽細胞に比べ、分化程度が低く、幹細胞に近い性質を持つ細胞集団で構成されていると考えられる。分化程度が低い幹細胞は、一般的にiPS化され易いとされるからである。
我々は乳歯歯髄細胞からのiPS細胞樹立の可能性を検討してきた。まず、被験者数名から初代乳歯歯髄細胞を単離した結果、被験者によって細胞増殖速度は変化に富んでいた。また、幹細胞マーカーの一つとされるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を検索したところ、個々での差が大きく、細胞増殖が速い細胞はALP活性も高かった。興味深い結果として、ALP活性の高い細胞ではiPS細胞の樹立効率が高くなることが示された。
今回は乳歯歯髄細胞の特性についてこれまで得られた結果を紹介するとともに、乳歯を用いたiPS細胞作製への取り組み、更にiPS細胞から歯組織再生へ向けた将来計画について講演させていただく予定である。
5.iPS細胞から象牙芽細胞への分化誘導技術の開発と歯の再生への応用
大津圭史
岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野
現在まで、乳歯歯髄、歯根膜、マウス切歯などに存在する幹細胞の発見や、胎生期歯胚再構成などの組織工学技術の進歩によって、機能的な歯の再生の可能性が示されてきている。しかしながら、ヒトの歯の再生を考えた場合、成体組織から高純度で十分な数の幹細胞を獲得することは技術的に困難であり、また胎生期の歯胚細胞を使用することは倫理上大きな問題を伴う。
これらの問題を解決するために我々は、自身の細胞から樹立可能で、高い増殖能を持つiPS細胞(人工多能性幹細胞)に着目して歯の再生研究を行っている。具体的なプロジェクトとして、iPS細胞から象牙芽細胞や、歯周組織を構成する細胞を獲得するために、その前駆細胞である神経堤細胞(NCLC)への分化誘導技術の開発を行い、そこから目的とする細胞を獲得することを目指している。
現在までに、iPS細胞は、細胞凝集塊(スフェロイド)を形成させた後、神経分化培地で培養することで効率よくNCLCに分化誘導できることがわかった。そしてこの細胞は軟骨、脂肪、骨細胞などへの分化能を有し、マウスの皮下に移植しても奇形種をつくらない安全性の高いものであった。さらにNCLCは歯胚上皮と共培養することや、歯胚上皮細胞の培養上清で培養することによって歯原性間葉細胞、さらに象牙芽細胞に分化することが明らかとなり、将来この細胞が歯の再生に有用である可能性が示唆された。(Otsu et al. Stem Cells & Development, 2012)。本講演ではこれらのデータをお示ししながらiPS細胞をどのように歯の再生に応用していけばよいか、今後の展望も含め議論したい。
6.iPS細胞からエナメル芽細胞への分化誘導技術の開発と歯の再生への応用
新垣真紀子
東北大学大学院歯学研究科小児発達歯科学分野
歯胚は、発生初期から歯原性上皮細胞と間葉細胞間の相互作用により、複雑な歯胚形態形成が行われ、最終的にはエナメル芽細胞、象牙芽細胞への分化により硬組織形成が行なわれる。歯の発生・再生研究では、歯髄幹細胞などから象牙芽細胞やセメント芽細胞を分化誘導する手法が報告されている。その一方で、エナメル芽細胞の分化メカニズムは未だ明らかになってない点も多く、人為的な分化誘導法も確立していない。
そこで我々は、多分化能と自己増殖能をもつiPS細胞に着目し、マウスiPS細胞とラット歯原性上皮細胞株SF2の中でもアメロブラスチン(Ambn)高発現のSF2-24との共培養系を用いて、iPS細胞からエナメル芽細胞への分化誘導を試みた。共培養後7日目において、iPS細胞におけるCK14とp63の発現上昇が認められ、さらにエナメル芽細胞マーカーであるAmbn、エナメリンの発現開始を認めた。さらに、共培養14日目の上皮細胞様に分化したiPS細胞集団において、AMBN特異抗体を用いた免疫細胞染色法により、AMBNタンパクの発現を確認した。これらの結果から、iPS細胞をAmbn陽性エナメル芽細胞へと分化誘導することに世界で初めて成功したといえる。またこの分化過程において、SF2-24が分泌するAmbn、Neurotrophin-4(NT-4)およびBMP分子群が、上皮細胞からエナメル芽細胞への分化において極めて重要な役割を演じていることが明らかとなった。これらの成果から、全身どこの細胞からも、エナメル上皮を誘導できる可能性が示唆されたことから、小児における交換期乳歯歯髄細胞を用いて、iPS細胞化と再生医療への応用を検討している。
テーマ2
歯根・歯周組織-ユニットのセレンディピティ
概要
歯根と歯周組織は密接に関連している構造であることは広く認められている。また、歯の再生に関する実験では歯と歯周組織が一体となった再生歯ユニットとしての器官再生が報告されており、画期的な方法として歯科界に光明をもたらしてくれている。本シンポジウムでは、歯根・歯周組織がユニットとして形成される機構について再生、修復、比較解剖、発生などの観点から議論する。
企画・座長
太田正人(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
馬場麻人(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科)
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成24年9月14日(金)15:15~17:15
会 場
奥羽大学 http://www.ohu-u.ac.jp/
演 題
1.歯根と歯周組織の由来について
馬場麻人
東医歯大 院医歯総合 硬組織構造生物
2.歯の再植・移植後の歯髄治癒過程における歯髄-歯周組織相互作用
武藤徳子1、石井信之1、大島勇人2
1神奈川歯大 歯内療法、 2新潟大 院医歯 硬組織形態
3.肝細胞増殖因子による歯根形成の誘導
藤原尚樹、坂野深香、大津圭史、原田英光
岩手医科大学 解剖学講座 発生生物・再生医学分野
4.Shh-FGF経路を介した歯根・歯周組織ユニットの発生機構
太田正人
新潟大学大学院医歯学総合研究科小児歯科学分野
第11回歯の発生生物学と作成に関するシンポジウム
(第117回日本解剖学会総会・全国学術集会研究会・懇話会として開催します)
テーマ
硬組織発生・再生を支える新規イメージング技術
企画・座長
原田英光(岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野)
大島勇人(新潟大学大学院医歯学総合研究科硬組織形態学分野)
主 催
歯の発生の会
後 援
歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成24 年3 月26 日(月)17:15~19:15
会 場
山梨大学甲府キャンパス L 号館C 棟2 階 F 会場
演 題
○大津圭史、原田英光
岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野
2. 多次元蛍光イメージングと計測による骨格の発生と分化の新規解析
○飯村忠浩
東京医科歯科大学大学院 口腔病理学分野
3. 細胞センシング技術を用いたナノ物質と細胞の相互作用研究
○谷口彰良
(独)物質・材料研究機構 生体機能材料ユニット細胞―材料相互作用グル ープ
抄 録
○大津圭史、原田英光
岩手医科大学解剖学講座発生生物・再生医学分野
歯の発生は、分子生物学,発生生物学の発展によって,その分子メカニズムが解明され,その成果は先天性遺伝性疾患の原因究明や再生医療に応用されてきた。しかし,従来の解析方法では,歯の形態や歯根形成のメカニズムが分子レベルで制御されていることを証明できても,実際にどのようにして咬頭の形に細胞が配列されるのか,歯冠から歯根へはどのように細胞が変化しているかなど,形態形成のメカニズムは十分に理解できていないと思われる。この課題 の解決には、細胞の分化、分裂、移動にかかわる細胞間、細胞内で起こる時間的変化をダイナミックに捉える必要があるだろう。最近,優れた蛍光、発光プローブの開発や光学顕微鏡の発達によって、細胞、組織、個体を生きたまま観察する「ライブイメージング」が注目をあびている。このような研究背景のもと、われわれは歯の発生をリアルタイムで観察する技術の構築に取り組んでいる。本講演では、歯の発生のダイナミクスを細胞、組織、器官レベルでイメージングする新規技術を紹介し、ここから得られた、エナメル上皮幹細胞の挙動、歯根発生におけるヘルトヴィッヒ上皮鞘形成、エナメル横紋形成メカニズムに関する結果を報告する。また、これらの技術を応用した将来的な研究の展望についても議論したい。
2. 多次元蛍光イメージングと計測による骨格の発生と分化の新規解析
○飯村忠浩
東京医科歯科大学大学院 口腔病理学分野
○谷口彰良1)、2)、3)
1)(独)物質・材料研究機構 生体機能材料ユニット細胞―材料相互作用クルーフ
2)早稲田大学大学院先進理工
3)筑波大学医学系大学院
ナノ粒子はそのサイズ効果などから様々な分野で応用が期待されていている。しかし、ナノ粒子は細胞への取り込みが容易でその毒性が懸念されている。ナノ粒子の安全利用には細胞と材料の相互作用を明らかにすることが重要である。しかし、細胞とナノ粒子の相互作用は十分明らかになっていない。一方、我々人類は何千年のも間、微生物やウイルスといったナノ・ミクロの敵と戦ってきた。その間我々が作り上げた生体防御システムの一つが自然免疫である。我々は自然免疫にかかわる分子がナノ粒子と細胞の相互作用に重要な役割を果たしていると考え、Toll like receptor や熱ショックタンパク質など自然免疫に関連した分子に注目して、これらの分子を介した細胞とナノ粒子の相互作用を研究している。我々はこの相互作用研究を行うために細胞をセンサ化(可視化)する研究を行っている。自然免疫にかかわる分子のプロモーターと蛍光・発光タンパク質の遺伝子を融合したプラスミドを作成し、ヒトや動物細胞に導入することによって細胞をセンサ化している。さらに、我々はこのセンサ細胞とナノ・マイクロ加工技術を融合することにより高感度かつハイスループットな検出デバイスの作成している。このようなセンシング技術はナノ物質の評価のみならず細胞の分化などの可視化にも利用できると考えている。
第10回歯の発生生物学と作成に関するシンポジウム
(第53回歯科基礎医学会学術大会・総会サテライトシンポジウムとして開催します)
テーマ
Considerable aspects in dental stem cells(歯の幹細胞を考える)
企画
Masaki Honda Department of Anatomy, Nihon University School of Dentistry, Tokyo, Japan
Hayato Ohshima Division of Anatomy and Cell Biology of the Hard Tissue, Department of Tissue Regeneration and Reconstruction, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata, Japan
本田雅規(日本大学 歯学部 解剖学教室II 講座)
大島勇人(新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野)
座 長
Masaki Honda Department of Anatomy, Nihon University School of Dentistry, Tokyo, Japan
Takashi Yamashiro Department of Orthodontics, Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama University, Okayama, Japan
本田雅規(日本大学 歯学部 解剖学教室II 講座)
山城 隆(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野)
主 催
歯科基礎医学会
後 援
歯の発生の会、歯胚再生コンソーシアム
日 時
平成23 年9 月30 日(金):13 時00 分~15 時00 分
会 場
長良川国際会議場(岐阜市長良福光2695-2)E会場(大会議室4F)
演 題
1. Is CD271 a selective marker in dental related-mesenchymal stem cells?
Masaki Honda
Department of Anatomy, Nihon University School of Dentistry, Tokyo, Japan
1. CD271(NGFR) は歯の間葉系幹細胞のマーカー?
○本田雅規
日本大学 歯学部 解剖学教室II講座
Noriko Mutoh1, Nobuyuki Tani-Ishii1, Hayato Ohshima2
1Division of Endodontics, Department of Oral Medicine, Kanagawa Dental College,Yokosuka, Japan;
2Division of Anatomy and Cell Biology of the Hard Tissue,Department of Tissue Regeneration and Reconstruction, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata, Japan
2. 歯の再植・移植後のBrdUラベル歯髄細胞の分化能と細胞増殖・アポトーシ スとの関連
○武藤徳子1、石井信之1、大島勇人2
1神奈川歯科大学 歯内療法学分野
2新潟大学 大学院医歯学総合研究科 硬組織形態学分野
Takashi Yamashiro
Department of Orthodontics, Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama University, Okayama, Japan
3. Runxは切歯の上皮幹細胞の維持と、増殖と分化の領域形成に関与する
○山城 隆
岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 歯科矯正学分野
4. Oct-3/4 maintains stem cell populations in the developing mouse incisor
○Hyuk-Jae Kwon, Han-Sung Jung
Division in Anatomy and Developmental Biology, Department of Oral Biology, Research Center for Orofacial Hard Tissue Regeneration, Brain Korean 21 project, Oral Science Research Center, College of Dentistry, Yonsei University, Seoul, Korea
5. Regenerative medicine by immunotherapy with orofacial and dental tissue mesenchymal stem cells
Takayoshi Yamaza
Department of Molecular Cell Biology and Oral Anatomy, Kyushu University Graduate School of Dental Science, Fukuoka, Japan
○山座孝義
九州大学 大学院歯学研究院 分子口腔解剖学分野
抄 録
1. Is CD271 a selective marker in dental related-mesenchymal stem cells?
Masaki Honda
Department of Anatomy, Nihon University School of Dentistry, Tokyo, Japan
For the past two decades, stem cells have been a key issue of regenerative medicine. Our research focus is to establish a procedure to generate tooth and periodontium using stem-cell biology, and tissue-engineering techniques. Mesenchymal stem cells (MSC) are multipotent stem cells, which in in vitro studies have been demonstrated to have the ability to differentiate into a variety of cell types, including osteoblasts, chondrocytes, adipocytes, and myocytes. MSC are adult stem cells traditionally isolated from bone marrow. Recently, MSCs have been identified and isolated from adult dental pulp, deciduous dental pulp, periodontal ligament, dental follicle, and root apical papilla using multiparameter flow cytometry. CD271 (Nerve growth factor receptor) has been described as the optimal selective marker for the bone marrow derived MSCs and adipose tissue-derived MSCs. We tested MSCs in dental-related stem cells for expression of CD271. The molecular function of CD271 in MSCs has not previously been described. We were able to show a novel role for CD217 in the differentiation of mesenchymal stem cells including deciduous dental pulp stem cells and murine multipotent MSCs (C3H10T1/2).
2. Differentiation capacity of BrdU label-retaining dental pulp cells following tooth replantation/transplantation<
Noriko Mutoh1, Nobuyuki Tani-Ishii1, Hayato Ohshima2
1Division of Endodontics, Department of Oral Medicine, Kanagawa Dental College,Yokosuka, Japan;
2Division of Anatomy and Cell Biology of the Hard Tissue,Department of Tissue Regeneration and Reconstruction, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata, Japan
Recently, we demonstrated that a pulse of BrdU given to prenatal animals reveals the existence of slow-cycling long-term label-retaining cells (LRCs), putative adult stem cells, which reside in the dental pulp. We will provide the information on the differentiation capacity of LRCs and their relationship to cell proliferation and apoptosis during pulpal healing following tooth replantation and allogenic tooth transplantation in mice. In the labeled transplants, LRCs were increased in number and committed in nestin-positive newly differentiated odontoblast-like cells, whereas they were not committed in osteoblast-like cells. Interestingly, numerous apoptotic cells appeared in the pulp tissue during the experimental period. These results suggest that transplanted LRCs maintain their proliferative and differentiation capacity in spite of extensive apoptosis occurring in the transplant. Tooth transplantation using GFP mice demonstrated that the donor cells constituted the dental pulp of the transplant except for endothelial cells and some migrated cells, and the periodontal tissue was replaced by host-derived cells except for epithelial cell rests of Malassez. These results suggest that the maintenance of BrdU label-retaining dental pulp cells is the decisive factor for the regeneration of odontoblast-like cells in the process of pulpal healing following tooth transplantation. In addition, the use of outbred mice such as ICR mice induced the immunological reaction in the dental pulp, whereas the use of inbred mice such as B6 mice never caused this reaction. However, the periodontal tissue was regenerated irrespective of the occurrence of immunological reaction due to the replacement of the donor periodontal tissue by the host tissue. Based on our results, we would discuss the differentiation capacity of putative dental pulp cells and the host-donor interactions in the process of pulpal regeneration.
3. Cbfb functions in the maintenance of stem cells and the continuous proliferation and differentiation in mouse incisors
Takashi Yamashiro
Department of Orthodontics, Graduate School of Medicine, Dentistry and Pharmaceutical Sciences, Okayama University, Okayama, Japan
Rodent incisors represent a special tooth type since they grow continuously throughout the lifetime of the animal, and their regenerative capacity implies the presence of a stem cell pool. The cervical loop, which is located in the apical part of the incisor epithelium, has been shown to be the epithelial stem cell compartment in the mouse incisor. Here, we report that epithelial Runx genes are involved in the maintenance of epithelial stem cells and their subsequent continuous differentiation and therefore growth of the incisors. RUNX proteins are now known to be important in development and stem cell biology. Core binding factor beta (Cbfb) acts as a binding partner for all Runx proteins, and targeted inactivation of this molecule abrogates the activity of all Runx complexes. Mice deficient in epithelial Cbfb produce short incisors and display marked underdevelopment of the cervical loop and suppressed Fgf signaling loop in in and around the the cervical loop. In culture, FGF protein rescues these phenotypes. Cbfb mutants also lack enamel formation and display downregulated Shh mRNA expression in cells differentiating into ameloblasts. I am showing how Runx/Cbfb genes function in the maintenance of stem cells in developing incisors by activating Fgf signaling loops between the epithelium and mesenchyme. In addition, Runx genes also orchestrate continuous proliferation and differentiation.
4. Oct-3/4 maintains stem cell populations in the developing mouse incisor
○Hyuk-Jae Kwon, Han-Sung Jung
Division in Anatomy and Developmental Biology, Department of Oral Biology, Research Center for Orofacial Hard Tissue Regeneration, Brain Korean 21 project, Oral Science Research Center, College of Dentistry, Yonsei University, Seoul, Korea
To date, studies have demonstrated the existence of dental stem cells in the continuously growing tooth. However, much remains to be learned about the complex mechanism involving stem cells during tooth development. We have demonstrated the localization of the stem cell marker Oct-3/4 in the continuously growing mouse incisor between embryonic day (E) 11 and postnatal day (PN) 20. Oct-3/4 was localized in the nucleus of the cells in the superficial layer and stellate reticulum within the dental epithelium from E11 to E14 and in the apical bud from E16 to PN20. Meanwhile, once the ameloblasts and odontoblasts began to appear at E16, they expressed Oct-3/4 in the cytoplasm. Another stem cell marker Yap was examined, being found to be expressed in most of the basal cells of the incisor dental epithelium from E11 to E14, but being expressed mainly in the transit-amplifying (TA) cells within the basal cell layer from E16 to PN20. In order to investigate the specific functions of these stem cell markers, incisors from PN2 mouse was organ-cultured with Oct-3/4 siRNA. Our results showed that Oct-3/4 plays an important role in the maintenance of stem cell populations in the apical end of the developing mouse incisor. In summary, the unique expression patterns of Oct-3/4 and functional inhibition results of Oct-3/4 suggest the importance of Oct-3/4 in the developing mouse incisor.
5. Regenerative medicine by immunotherapy with orofacial and dental tissue mesenchymal stem cells
Takayoshi Yamaza
Department of Molecular Cell Biology and Oral Anatomy, Kyushu University Graduate School of Dental Science, Fukuoka, Japan
Since human adult dental pulp tissue-derived stem cells, dental pulp stem cells (DPSCs) were isolated and characterized in 2000 (Gronthos et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA), a variety of orofacial and dental tissue-derived mesenchymal stem cells have been identified in dental pulp tissue of exfoliated deciduous teeth (stem cells from human exfoliated deciduous teeth (SHED), Miura et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2003), periodontal ligament (periodontal stem cells (PDLSCs), Seo et al, Lancet, 2004), apical papilla tissue of tooth roots (stem cells from apical papilla (SCAP), Sonoyama et al., PLoSOne, 2006), and gingival connective tissue (gingival derived mesenchymal stem cells (GMSCs), Zhang et al, J. Immunol, 2009), and elucidated their stem cell characteristic. Recently we succeeded to isolate and characterized mesenchymal stem cells in dental pulp tissue of human supernumerary teeth. Therefore, orofacial and dental tissue-derived mesenchymal stem cells are getting to occupy their importance in the present regenerative therapy. Much attention has been focused on regeneration of dental pulp tissue, periodontal tissue and jaw bones by orofacial and dental tissue-derived mesenchymal stem cell-based tissue engineering. On the other hand, we recently discovered the immunomodulatory capability to suppress T lymphocyte activity in vitro and in vivo by orofacial and dental tissue-derived mesenchymal stem cells. In this symposium, we introduce our recent topics regarding to regenerative medicine by immunotherapy based on orofacial and dental tissue-derived mesenchymal stem cells.