第50回歯科基礎医学会学術大会・総会サテライトシンポジウムとして開催します。
テーマ: | 顎顔面形態形成研究のフロンティア−口腔組織発生のバイオロジー− |
日時: |
平成20年9月23日(火曜日)9:00〜10:30 |
場所: |
A会場 |
企画者: |
大島勇人(新潟大学)、本田雅規(日本大学) |
座長: |
大島勇人(新潟大学)、本田雅規(日本大学) |
後援: |
歯胚再生コンソーシアム |
プログラム |
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【趣旨】
2008年2月10〜15日にイタリアのLuccaでCraniofacial Morphogenesis & Tissue Regenerationに関するGordon Research Conferences(Chair: Irma Thesleff、Vice Chair: Paul Trainor:ホームページhttp://www.grc.org/programs.aspx?year=2008&program=cranio)が開催されました。同学会は2年に一度開催される「頭蓋顔面発生生物学」の世界の著名な研究者が一同に会する国際学会ですが、Neural Crest/Early Events、Evo-Devo of Patterning、Morphogenesis、Signaling、Skeletal Development、Cleft and Palate、Stem Cells、Tissue Engineeringをトピックスに最新の研究データの提供と活発な議論が交わされました。その中で、日本人若手研究者の活躍も目を引きました。今回は、顎顔面形態発生研究の領域で、海外で活躍している若手研究者、海外から帰国して継続して研究を発展している若手研究者による口腔組織発生のバイオロジー研究をトピックスに活発な議論をするために本シンポジウムを企画しました。
【演題と抄録】
1.神経堤細胞におけるTGF-βシグナルの役割 〜歯と下顎骨の発生を中心として〜 日本大学歯学部 解剖学教室II講座 岡 暁子 九州大学 大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 口腔顎顔面外科学分野 岡 正司 |
Transformaing Growth Factor-β(TGF-β)は、様々な組織に発現しており、生体の重要な機能を担っている蛋白である。このTGF-βシグナルのレセプターの変異は、ヒトでも報告され顔面領域の奇形を伴うMarfan症候群やLoeys−Dietz症候群の責任遺伝子であることが分かっている。
TGF-βII型レセプターの発生学的重要性を知るために、コンベンショナルにTGF-βのII型レセプターをノックアウトすると、胎生初期に致死的となり顔面発生解析には不向きである。そこで、頭蓋神経堤細胞特異的にTGF-βのII型レセプターをノックアウトしたマウス(Wnt1-cre;Tgfbr2fl/fl)を作成し、このマウスに発現した下顎骨と歯の形成異常について解析を行った。Wnt1-Cre LoxPシステムのアドバンテージは、その発現場所と時期から頭蓋神経堤細胞の遊走開始直前に標的遺伝子がノックアウトされ、頭蓋神経堤細胞で構成される組織では永久的に標的遺伝子の発現がおこらないことである。よって、下顎角、下顎頭における未分化細胞においては、TGF-βシグナルがそれらの運命決定どう関わっているかを解析することが可能となり、大変興味深い知見を得た。本シンポジウムでは、細胞分化誘導から基質分泌にわたる多彩なTGF-βの機能について、下顎骨・象牙質形成を中心にお話する。
2.舌の発生における顔面神経堤細胞の役割 University of Southern California, School of Dentistry, Center for Craniofacial Molecular Biology 細川亮一 |
胎児発生における組織相互作用の重要性が言われている。具体例として、歯胚発生における上皮−間葉組織相互作用は最も研究が進んでいる分野と思われる。本報告では、Cre-LoxPトランスジェニックマウスシステムを用いて、骨格筋形成過程における腱および筋組織周囲の線維芽細胞の役割について検討を行った。顎顔面部と体幹部における線維芽細胞の由来が違うことが報告されている。体幹部は間葉細胞由来、つまり筋芽細胞と同じ由来である。一方、顎顔面部の筋芽細胞は同じく間葉細胞であるが、線維芽細胞は顔面神経堤細胞由来であることが、Chickモデルで言われている。今回、Wnt1-Cre;R26R マウスを用いて、哺乳類でも同様に腱および筋周囲の線維芽細胞が、神経堤細胞由来である確認を行った。また、Wnt1-CreマウスとTgfbr2fl/fl マウスを交配することによって、顔面骨格筋の発生過程に於ける線維芽細胞におけるTGF-?シグナルの役割について考察を行った。
Wnt1-Cre;Tgfbr2fl/fl マウスは、肉眼的表現形として小舌症を呈した。組織学的には筋繊維の減少とミスオリエンテーションを示した。更に細胞増殖能を非実験群と比較したところ、筋芽細胞特異的に増殖能が低下していた。In vivoにて顔面神経堤由来の線維芽細胞がFGF10分泌し、Wnt1-Cre;Tgfbr2fl/fl マウスではこの発現が減少していた。In vitro primary cultureでは、FGF10 プロテインの添加によって、Wnt1-Cre;Tgfbr2fl/fl マウスの骨格筋形成をレスキューした。結論として本研究では、筋周囲の線維芽細胞は、筋芽細胞の増殖能に対してCell non-autonomous functionを有していることを示した。
3.歯胚形成における細胞増殖と分化 米国国立歯科顎顔面研究所、トーマス・ジェファーソン大学 整形外科研究所 中村卓史 |
外胚葉系器官(歯、毛胞、唾液腺等)の発生は、器官形成特定領域の上皮の肥厚に始まる。肥厚した上皮は増殖しながら間葉組織へと陥入、同時に増殖因子群を発現することで間葉細胞との相互作用を開始する。歯の形成や分化過程においても歯原性上皮と間葉の相互作用が重要であり、この相互作用により歯原性上皮が陥入していく方向や上皮および間葉細胞の増殖・分化を調節している。
我々がマウス臼歯より同定した新規転写因子エピプロフィンは、歯の発生初期において歯堤に限局して発現し、その後、内エナメル上皮およびエナメル芽細胞にも持続的に発現する。我々はエピプロフィンの分子生物学的機能を解析する為に、エピプロフィン欠損マウスを作成した。その結果、エピプロフィン欠損マウスでは歯胚の発生が著しく遅延していた。しかしながら本マウスでは、加齢とともに持続的に過剰歯を形成した。この形成された過剰歯を組織学的に検討した結果、歯原性上皮の分化が完全に阻害され、エナメルの構造が欠損していたにもかかわらず象牙質は認められていた。すなわちエピプロフィンは歯原性上皮がエナメル芽細胞へ分化するために必須の転写因子であり、歯数を決定する機構にも関わっていることが明らかとなった。最近ではエピプロフィンが歯原性細胞の分化のみでなく、上皮細胞の増殖を制御していることも明らかとなり、現在そのメカニズムを追求している。
4.The role of Evc in tooth development Mitsushiro Nakatomi and Heiko Peters Institute of Human Genetics, Newcastle University, UK |
The human EVC gene encodes a protein of nonmotile primary cilia and mutations in EVC are responsible for Ellis-van Creveld syndrome, a chondro-ectodermal dysplasia characterized by short limbs and ribs, postaxial polydactyly, dysplastic nails and teeth, multiple frenulae and often heart defects. Primary cilia are finger-like projections and are present on nearly all vertebrate cells. Recent reports have shown the important function of primary cilia for mediating Hedgehog signalling via regulation of transport of essential pathway components within the cilium. Sonic hedgehog (Shh) is one of the key molecules for embryonic tooth patterning and morphogenesis at multiple stages as well as for post-natal tooth root development. However, little is known so far how cilia proteins are involved in transducing or modulating the Shh pathway during odontogenesis. It has been reported that Evc-deficient mice recapitulate some defects seen in Ellis-van Creveld syndrome patients. Here we present an analysis of dental phenotypes of Evc-deficient mice. Our results would contribute to a further understanding for both normal tooth development and the pathogenesis of Ellis-van Creveld syndrome.
5.象牙質形成と象牙質シアロリンタンパク(DSPP) ミシガン大学歯学部 生体材料科学講座 山越康雄 |
象牙質中の有機性基質はほとんどがコラーゲンで、残りの約10%が非コラーゲン性タンパク質 (noncollagenous protein: NCP) である。NCP中、最も多いのは象牙質シアロリンタンパク (dentin sialophosphoprotein: DSPP) で、象牙質シアロタンパク (dentin sialoprotein: DSP)、象牙質糖タンパク (dentin glycoprotein: DGP)、象牙質リンタンパク (dentin phosphoprotein: DPP) の3つのタンパク質から構成される。我々は、DSP、DGP、DPPが象牙質の基本構造の形成にどのように関与しているのかを解明するためにそれらの構造及び機能解析のタンパクレベル研究を行っている。本講演では、これまでに明らかにしてきた、DSPがN型及びO型糖鎖とコンドロイチン6硫酸鎖を有するプロテオグリカンであること、DGPがN型糖鎖を含むリン酸化糖タンパク質で、いくつかのアイソフォームが存在すること、DPPが高度にリン酸化された強酸性タンパク質であり、電気泳動上では少なくとも3つのバンドが現れるが、それらの多様性は遺伝子多型によることなどのタンパク質構造の特徴や、それらのタンパク質がDSPPからどのようにプロセスを受けて生じるかなど、最近の研究成果を示しながら、象牙質形成におけるそれらの考えられる機能を紹介する予定である。