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臨 床 くちのかわき・味覚外来

1.「くちのかわき・味覚外来」
2.口腔乾燥症とは?
3.口腔乾燥症の原因
4.口腔乾燥症の検査
5.口腔乾燥症の治療
6.味覚障害とは?
7.味覚障害の原因
8.味覚障害の検査
9.味覚障害の治療
10.受診をするには
11.臨床データ使用に関するお願い
1.「くちのかわき・味覚外来」
くちのかわきは,専門的には口腔乾燥症と言われており,主に唾液が少なくなることによって起こります.乾燥感,会話のしづらさ,ねばつき,ヒリヒリ感などの他,虫歯や歯周病になりやすくなる可能性もあります.
味に関する訴えには,薄い味がわからない,口の中に何もないのに塩味や苦味など変な味がする,など様々なものがあり,味覚障害といわれています.
口腔乾燥症も味覚障害も,外見からは分かりづらいですが,大変つらい症状で,食欲低下を招いたり,生きる楽しみが妨げられたりしてしまいます.また,口腔乾燥症と味覚障害は関連していることも多いです.
したがって,新潟大学医歯学総合病院口腔リハビリテーション科では,2019年度から,「くちのかわき外来(2003年設立)」と「味覚外来(1998年設立)」をひとつの専門外来としてまとめ,「くちのかわき・味覚外来」と致しました.
症状に悩む患者様に寄り添い,症状の緩和に努めたいと思っております.

2.口腔乾燥症とは?
1)唾液の役割
私たちの口腔内には,1日に1L〜1.5Lもの唾液が分泌されています.
唾液は,主に三大唾液腺である耳下腺,顎下腺,舌下腺から分泌されます.唾液には,じっとしているときに出てくる安静時唾液と,食事などの刺激によって出てくる刺激唾液の2種類があり,含まれている成分や濃度が異なります.
唾液は,消化作用や洗浄作用,抗菌作用など重要な役割を担っています.
2)口腔乾燥症とは?
口の乾燥感は,主に口の中の唾液が減少することによって起こります.
「口がカラカラする」「話しづらい」「ねばつく」「食事のとき水分がないと飲み込みにくい」などの症状が現れます.2019年現在,1400名近くの患者様が受診されており,約8割が女性です.また,年齢別では,50代以降の方が多く来院されています.
3.口腔乾燥症の原因
唾液は,唾液腺で作られます.この唾液腺を唾液の工場に例えると,唾液という製品を作るための材料が血液となります.しかし,工場は何かの命令がないと動きませんし,材料の入荷もありません.その指令を出すのが,自律神経です.したがって,「唾液が出ない」という同じ症状でも,その原因は様々であり,工場(唾液腺)の問題,材料(血液)の問題,指令系統(自律神経)の問題などに分けられます(図1).その他,唾液が減っていないにも関わらず,口腔乾燥を感じてしまうこともあります.
口腔乾燥症の原因のうち,主なものについて概説します.
1)薬剤の副作用によるもの
お薬には,良い面と悪い面(副作用)があり,副作用として唾液量が減ってしまうことがあります.現在,国内で使用されている薬剤のうち,約700種類に口腔乾燥の副作用があると言われています.薬局でもらう情報提供書に,「この薬を飲むと口が乾くことがあります」と記載されている場合があります.そのような記載があっても,自己判断で中止するのは絶対に避け,必ず主治医に相談するようにしてください.
2)シェーグレン症候群によるもの
シェーグレン症候群とは自己免疫疾患のひとつで,目の乾燥,口の乾燥が主な症状です.唾液腺や涙腺などが自分のリンパ球によって攻撃されてしまうことによって,唾あるいは涙が減少してしまいます.シェーグレン症候群は1:13.7の割合で女性に多いと言われています.
3)ストレスによるもの
「緊張すると口が乾く」と言いますが,これは,自律神経のうち,交感神経の働きが副交感神経よりも高まっている状態で,唾液の量が少なくなり,また,唾液の粘つきが増してしまいます.一時的な緊張による場合もありますが,ストレスなどがあると,この状態が慢性的になり,唾液が減ってしまいます.
4)放射線治療の副作用
頭頸部に腫瘍などができて,放射線治療を行う場合があります.放射線は,残念ながら,腫瘍だけでなく,唾液腺にもあたってしまいます.そうすると,唾液を正常に作ることが難しくなり,唾液量が減ってしまいます.
5)口呼吸
唾液はたくさん出ていても,口で呼吸をすると,唾液が蒸発してしまい乾燥感を生じてしまいます.
4.口腔乾燥症の検査
当院では,その方の症状に合わせて,下記のような問診あるいは検査を行っています.
1)問診など
主訴,既往歴,現病歴などについてのお話を伺います.また,ストレスに関する質問票へのご記入もお願いしています.記入する書類が多くて申し訳なく思っておりますが,患者様の症状を把握するために必要なことですので,ご理解をお願いいたします.
2)唾液分泌量の測定
唾液には,安静時唾液(じっとしているときの唾液)と刺激唾液(何か物を咬んだり,刺激を受けたりしているときの唾液)があります.これらの分泌されるメカニズムは異なりますので,2種類の検査をします.
①安静時唾液分泌量の測定
15分間,唾液をコップに吐き出してもらう吐唾法で測定します.
シェーグレン症候群診断基準では,15分間で1.5ml以下を分泌量低下としています.
②刺激唾液分泌量の測定
10分間,ガムを噛んでいる間に出てくる唾液を測定します.1 0分間で10ml以上が正常とされています.
また,2分間,ガーゼを噛んでいただいて,ガーゼにしみ込んだ唾液の重さを測る,サクソンテストという方法もあります. 2分間で2g以上が正常とされています.
3)口腔内の診査
お口の中,特に舌や粘膜の状態,唇の乾きなどをチェックします.
4)唾液腺の触診
唾液腺を軽く押さえ,唾液がどのくらい出てくるかチェックします.また,腫れやしこりがないかを調べます.
5)画像検査と血液検査
必要に応じて,唾液腺のエコー検査,レントゲン検査,MRI検査,血液検査を行います.
6)その他
唾液が少ないと,口腔カンジダ菌が増加することがあります.口腔カンジダ菌の培養検査をすることもあります.その他,患者さんの状態に合わせて必要な検査を行います.
5.口腔乾燥症の治療
治療方法は,原因によって異なりますが,主なものをご紹介します.
1)病院で行う治療
<お薬による治療>
患者さんの状態に合わせて,唾液分泌促進剤という唾液の分泌を促す薬や,漢方薬を処方することがあります.
<カウンセリング>
ストレスが原因の場合は,カウンセリングを行うことがあります.
<他科との連携>
他の病気が原因で口腔乾燥症が起こっている場合は,専門の診療科に紹介して治療を依頼することもあります.また,お薬の副作用が原因である場合は,そのお薬を処方している主治医に,薬剤の変更・減量依頼をすることもあります.
2)ご自身で行える治療
<保湿剤の使用>
保湿剤
お口に潤いを与える保湿剤というものがあります.保湿剤は,大きく分けると,スプレータイプ,ジェルタイプ,洗口液タイプに分けられます.現在,たくさんの種類の保湿剤が,病院の売店や薬局の一部などで販売されています.
保湿剤の選択
スプレータイプは口腔内に数回噴霧するもので,簡便でさっぱりしている一方,液体であるため効果の持続時間が短いという欠点があります.ジェルタイプは,約1cmを指にとって舌にのせ,舌を口腔内で動かして口腔全体に塗布するものです.粘性が高いため持続時間が長い一方,ネバネバするという欠点があります.乾燥した粘膜に直接塗布すると,かえって乾燥感が強くなることがありますので,同じシリーズの保湿剤の洗口液タイプや水分で湿潤させたのちに,薄く塗布します.洗口液タイプは,1日数回含嗽するものであり,刺激が少ないのが特徴です.その他,刺激が少ない歯磨剤も販売されています.このように保湿剤にはいろいろな種類がありますが,それぞれ含まれている成分や保湿剤自体の味が異なります.その方の症状や使用する環境に合わせて,適切な保湿剤を選択することが大切です.
<唾液腺のマッサージ>
唾液は,耳の前にある耳下腺,顎の下にある顎下腺,舌の下にある舌下腺から主に分泌されます.この唾液腺を優しくマッサージをすることで唾液の分泌を促します.耳下腺マッサージは,耳の前に手をあてて円を描くようにします.顎下腺と舌下腺マッサージは,顎の骨の内側を親指で軽く押し上げながら,少しずつ親指を前後に移動させます.マッサージの回数や時間帯は決まっていません.食事前,テレビを見ながら,お風呂に入った時,布団に入った時など,日常生活の中に取り入れるのがよいでしょう.
<日常生活で気をつけること>唾液の分泌を調節する自律神経のバランスを整えるために,規則正しい生活を心がけます.また,冬は暖房器具などによって,空気が乾燥します.加湿器の使用もよいでしょう.
唾液が減少すると,虫歯や歯周病などにかかりやすくなります.毎日の口腔清掃をしっかり行うことも大切です.さらに,定期的に歯科医院を受診することが重要です.
6.味覚障害とは?
1)味覚
味には,甘味,塩味、酸味、苦味があり,これらを四基本味といいます.これにうま味をくわえたものは,五基本味と言われています.味がついたものは,舌や上あご(口蓋:こうがい),咽頭部などにある味細胞でキャッチされ,その情報が脳に伝わることで,「甘い」「しょっぱい」などの味を感じます.
2)味覚障害とは?
「味を感じにくくなった」「何を食べても砂をかんでいるみたい」「口の中に何も入っていないのに,塩味や苦味,渋味などの味がする」など,その方によって,症状は多様です.
2019年現在,700名を超す患者様が受診されています.男女比は,およそ2:3でやや女性に多いですが,年齢別には10歳代から90歳代までと広くなっています.
3)味覚障害の分類
「味覚障害」には,様々な種類があります.下記に主なものを挙げます.
味覚減退:濃い味だとわかるが,薄い味はわからないもの
無味症 :味を濃くしても,全くわからないもの
解離性無味症:ある味だけわからないもの 例)甘い味だけわからないなど
片側性無味症:左右のいずれかのみ,わからないもの 
自発性異常味覚:口の中に何も入っていないのに,何かの味がするもの
7.味覚障害の原因
味覚障害の原因は,血液中の亜鉛不足,薬剤の副作用,ストレス,全身の病気,耳の病気,舌の病気,中枢神経の障害によるものなど様々です.また,味覚は正常であるにもかかわらず,嗅覚が障害されていると,味覚がないと感じることもあります.風邪を引いた後,一時的に味を感じにくくなることもあります.主な原因について概説します.
1)亜鉛不足
亜鉛は,タンパク質の合成や,酵素の活性化に欠かせない金属です.厚生労働省が発表した2005年版の食事摂取基準によると,日本人の1日推奨量は,成人男性で9mg,女性で7mgです.偏りのない食事を摂取していれば,ほぼ摂取可能ですが,食事回数が少なかったり,栄養が偏ったりしていると不足してしまいます.また,胃腸障害があると,摂取した亜鉛を十分に吸収できないこともあります.
2)薬剤の副作用
お薬には,良い面と悪い面(副作用)があり,薬局で発行されるお薬の情報用紙に,「この薬を飲むと,食事の味がかわることがあります」などの記載があるものもあります.
もし,そのような記載があっても,自己判断で中止するのは絶対に避け,必ず主治医に相談するようにしてください.
3)感冒(風邪)
風邪をひくと,一時的に味覚が障害されることがあります.これは,風邪薬の副作用によるという説と,風邪を治すために体内の亜鉛が消費されるために亜鉛不足に陥るためという説があります.時間の経過とともに治ることが多いです.
4)ストレス
ストレスによって,味を感じにくくなったり,あるいは口の中に何もないのに苦味や塩味,渋味などを感じてしまうことがあります.
8.味覚障害の検査
当院では,その方の症状に合わせて,下記のような問診あるいは検査を行っています.
1)問診
主訴,既往歴,現病歴などについてのお話を伺います.耳の病気(中耳炎など)や嗅覚についてもお伺いします.また,ストレスに関する質問票へのご記入もお願いしています.記入する書類が多くて申し訳なく思っておりますが,患者様の症状を把握するために必要なことですので,ご理解をお願いいたします.
2)味覚検査
①全口腔法による検査
様々な味および濃度の溶液を口腔内に1ml入れます.口の中全体で味わってもらい,どの段階の濃さで,味を感じることができるかどうかをみます.
②テーストディスクによる検査
様々な味および濃度の溶液をしみ込ませた直径5mmのろ紙を,舌の前方,後方,左側,右側などにおき,どの段階の濃さで,味を感じることができるかどうかをみます.
③電気味覚検査
舌の一部分を,弱い電流で刺激し,どの強さで,「金属をなめたような味」がするかを調べます.
3)血液検査
血液中の亜鉛量やビタミン,銅,鉄などの量を調べます.
9.味覚障害の治療
治療方法は,原因によって異なりますが,ここでは,代表的な治療方法について説明します.
1)亜鉛の補充
亜鉛不足が原因の場合は,亜鉛を補うための薬剤を処方します.また,亜鉛を多く含む食品摂取を指導します.亜鉛は,図のような食品に多く含まれています.しかし,亜鉛を多く含むからといって,これらの食品ばかりを摂取すると,コレステロールが高くなってしまうこともありますので,偏りのない食事を心がけましょう.
2)薬剤の処方
患者さんの状態にあわせて漢方薬を処方することもあります.
3)他科との連携
他の病気が原因で口腔乾燥症が起こっている場合は,専門の診療科に紹介して治療を依頼することもあります.特に,においも感じにくい場合は,耳鼻咽喉科に紹介をします.また,お薬の副作用が原因である場合は,そのお薬を処方している主治医に,薬剤の変更・減量依頼をすることもあります.
4)カウンセリング
ストレスが原因である場合は,カウンセリングを行います.
5)日常生活での注意
いろいろな栄養素を含むものを,バランスよく摂取するように心がけることが大切です.また,味がわからなくなると,味付けを濃くしがちになりますので,塩分の摂り過ぎにならないように,注意をする必要があります.
10.受診をするには
「くちのかわき・味覚外来」は完全予約制です.来院される前に必ずお電話での予約をお願いいたします.また,来院される際に,紹介状やお薬手帳などをご持参いただくと,症状をより把握しやすくなります.また,過去に口腔乾燥症や味覚障害について検査や治療を受けた経験がある場合は,その際の検査結果や,どのようなお薬を使用したか,また,その効果がどうだったかなどの情報をお伝えいただければ幸いです.
また,唾液分泌量の測定などの検査は,自費診療で4445円いただいておりますので,ご了承ください.
受診方法,診療日,問合せ先電話番号などは,新潟大学医歯学総合病院口腔リハビリテーション科のホームページをご覧ください.

http://www.nuh.niigata-u.ac.jp/department/dentistry12.php

口腔乾燥症も味覚障害も,外見からはわかりづらい病気です.そのため,周りの方から理解を得られにくく,お一人で悩んでいらっしゃる患者様が多いのが現状です.でも,あなたの症状を少し和らげることができるかもしれません.悩む前に,一度,ご来院ください.
11.臨床データ使用に関するお願い
当院では,くちのかわき・味覚外来を受診した患者さんを対象として,患者層,罹病期間,既往歴,服用薬剤などの基本情報,問診票,唾液検査,味覚検査,診断,治療経過などに関するデータをカルテから転記し,統計解析を行っております.ご理解のほど,よろしくお願いいたします.
詳しくはこちらをご確認ください.
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