<Tooth-Dev シンポジウム情報> 
2006.3.27.版



第3回歯の発生生物学と再生に関するシンポジウム

第111回日本解剖学会総会・全国学術集会 研究集会・懇話会(9)として開催します。PDF版 はこちら

日時:
2006年3月28日(火)(12:30〜15: 00)
場所:
北里大学 医学部 M1号館 3F M33講義室( 相模原市北里1-15-1)

ア クセス図

シ ンポジウム会場案内図

企画者:
大島勇人、田畑 純、原田英光、藤原尚樹
座長:
大島勇人、田畑 純
後援:
歯胚再生コンソーシアム
プログラム
1. 鄭 翰聖(延世大学校歯科大学 口腔生物学講座組織学分野)
Ectodermal dysplasia in ENU-induced mouse mutants

2. 川島伸之(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯髄生物学分野)
歯の発生とFGF18

3. 齋藤正寛(神奈川歯科大学 歯科保存学講座)
歯周靱帯発生に関与する細胞外マトリックス因子の機能解析

4. 井関祥子(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野)
哺乳類頭蓋顎顔面の組織由来と切歯の形態形成

5. 岩瀬峰代(総合研究大学院大学 先導科学研究科)
性染色体分化とアメロジェニン遺伝子

 
【趣旨】 

 欧米では、フィンランドの Thesleff、英国の Sharp など「歯の発生研究」の大きな拠点があり、TMD (International Conference on Tooth Morphogenesis and Differentiation) 、COST meetingなど情報交換の場も充実しています。そこで、日本でも歯の発生研究者の情報交換・共同研究促進の場を作り出すべく、「歯の発生生物学と再生 に関するシンポジウム」をシリーズで企画しております。日程は、多くの方に参加して頂けるよう、首都圏で開催される第111回日本解剖学会総会・全国学術 集会の前日(研究集会・懇話会)です。この様な活動が将来の日本版TMD に繋がればと思っています。


【演題と抄録】

1.Ectodermal dysplasia in ENU-induced mouse mutants

延世大学校歯科大学 口腔生物学講座組織学分野
鄭 翰聖

 

Beginning with the post genome era, geneticists is focusing their studies on gene function and its role in mechanism of human disease. Currently one of the most powerful mutagen for the production of mutant, N-ethyl-N-nitrosourea (ENU) mutagenesis and screening, for altered phenotypes have been used effectively in many model mice to identify mutation in genes that control biological processes. We have screened out for novel ENU-induced two mutations that give rise to ectodermal dysplasia and cataract respectively. ENU-induced ectodermal dysplasia mice showed the defects in tooth, hair, kidney, and craniofacial morphogenesis. The ENU-induced cataract would reveal the pathological mechanisms in eye abnormality, cataract. These collections of ENU-induced mutations, ectodermal dysplasia and cataract, would be valuable animal models to understand the function of specific genes and molecular mechanisms in human congenital disease such as ectodermal dysplasia and cataract (This work was supported by grant no. R01-2003-000-11649 from Korea Science & Engineering Foundation).

 Key words: Ectodermal dysplasia, Tooth, Hair, Kidney, Cataract, ENU


2.歯の発生とFGF18

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 歯髄生物学分野
21stCOEプログラム 歯と骨の分子破壊と再構築のフロンティア
川島伸之、大井智恵、須田英明

 緒言:神経堤由来の組織である歯髄間葉組織は、口腔上皮との相互作用の結果として分化、成熟す る。その過程においては、BMPFGFHedgehogWntをはじめとするさまざまな因子およびシグナルが関与していると報告されている。ところで、FGF18FGF8, 17と同じサブグループに属する成長因子であり、骨・軟骨系の細胞の増殖や分化に関係すること が報告されている。FGF18欠損マウスにおいては骨・軟骨の形成異常が認められ、骨化の遅延や、頭蓋冠の癒合不全を呈 する(Ohbayashi N. et. al., 2002, Liu Z et. al., 2002)。我々は、ラット歯髄組織において発現している種々の因子の網羅的な解析を試みた結果、 成長因子のうち特にFGF18が強く発現していることが明らかになった。今回さらに、歯髄および歯胚におけるFGF18発現とともに、その機能についても検討を行った。

 材料および方法:実験動物として、Wistarラット、Jcl:ICRマウス、FGF18欠損マウス、(バックグラウンドC57Bl/6:岡崎統合バイオサイエンスセンター 大林先生より供与)を用いた。培養細胞としてMDPC23(歯髄細胞)、Kusa-A1(骨芽細胞)を用いた。in situ hybridizationは、未固定凍結切片上にて、DIGラベルのプローブを用いて行った。

 結果および考察:マウス、ラット双方の歯髄組織における強いFGF18 mRNAの発現が確認された。またマウスから摘出した各組織におけるFGF18 mRNA発現の強さをrealtime PCRで比較したところ、筋肉、肺および脳において強い発現が認められ、歯髄での発現は中等度で あったが、肝臓、脾臓、胃での発現はほとんど認められなかった。歯胚におけるFGF18 mRNAの発現は、蕾状期では間葉組織に認められ、帽状期、鐘状期では内エナメル上皮ならびに歯小 嚢でも発現が認められた。さらにFGF18欠損マウスにおける歯胚は、野生型のそれと比較して有意に小さかったが、歯胚自体の発生に 障害はなく、また細胞の構成にも異常は認められなかった。ただ、FGF18欠損マウス歯胚の内エナメル上皮および歯乳頭においてはPCNA陽性細胞が減少しており、FGF18欠損により細胞増殖が正常に行えなかった結果として歯胚の大きさの異常が認められたものと 思われる。in vitroにおいてFGF18は歯髄細胞に対する細胞増殖活性を有しており、上記の推論を裏付けるものと思われる。FGF18の歯髄発生過程における主な作用は細胞増殖の賦活であると思われるが、成熟歯髄における機 能はいまだ不明であり、今後解明を進めていきたいと考えている。

参考文献

  1.  Ohbayashi N et. al., FGF18 is required for normal cell proliferation and differentiation during osteogenesis and chondrogenesis. Genes Dev. 2002 Apr 1;16(7):870-9.       

  2.  Liu Z et. al., Coordination of chondrogenesis and osteogenesis by fibroblast growth factor 18. Genes Dev. 2002 Apr 1;16(7):859-69.

3.歯周靱帯発生に関与する細胞外マトリックス因子の機能解析

神奈川歯科大学 口腔治療学講座 歯科保存学分野、口腔難治疾患研究所
齋藤正寛

歯周病は加齢と共に進行する炎症性疾患で、 重度に進行したケースでは抜歯に伴う咀嚼障害を引き起こす。近年の歯周病再建療法の進歩より、軽度の歯周病は治療できるようになったが、水平性骨欠損を伴 う重度の歯周病にはなす術がないのが現状である。このようなケースに対応するには歯周組織発生機構に基づく歯周病再生医療の開発が必須になる。そこで演者 らは歯周組織発生機構を解明する目的で、歯周組織の発生起源である歯小嚢細胞の培養システムの構築と、歯周靱帯(歯根膜)発生に関わる機能分子の探索を試 みてきた。これまで細胞不死化技術を応用して歯小嚢細胞よりセメント芽細胞前駆体と歯根膜前駆体細胞の分離に成功し、これらの細胞を免疫不全マウスに皮下 移植するとセメント芽細胞、歯根膜細胞あるいは骨芽細胞へ分化誘導できることを示した。特にマウス切歯未分化歯小嚢領域より分離した不死化マウス歯小嚢細 胞(Mice Dental Follicle cells:MDFE6-EGFP)は腱/靱帯マーカーであるscleraxisgrowth and differentiation factor-5を高発現しており、SCID miceへ移植すると歯根膜 マーカー分子であるPeriostinを高発現する歯根膜様組織の形成能力を有することが明 らかになった。これらの結果より、歯小嚢細胞中には腱/靱帯細胞と類似した歯根膜前駆体細胞が存在することが 考えられた。一方、完全長cDNA libraryデータベースの進歩より、腱/靱帯のような従来技術では解析困難であった組織のマー カー遺伝子の解析も可能になりつつある。実際にERATO関口細胞外環境プロジェクトでは胎児の腱/靱帯組織で特異的に発現する新規細胞外マトリックス(ECM)因子群の同定に成功した。そこで新規ECM因子と歯根膜発生機構の関連を調べるために、歯胚発生 過程での発現パターンを解析した。その結果、新規ECM因子は鐘状期以降の歯小嚢で高発現し、歯根形成過程で は歯根膜で特異的に発現することが観察された。また、興味深いことに同因子は歯根膜の主要な弾性線維であるオキシタラン線維の構成成分であることも判明し た。本セミナーではこれらの知見を中心に、腱/靱帯形成に関わるECM因子と歯根膜発生の分子メカニズムについて紹介する。

4.哺乳類頭蓋顎顔面の組織由来と切歯の形態形成

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 分子発生学分野
井関祥子

 哺乳類頭蓋顎顔面の特徴の一つは、体幹部の骨格が中胚葉由来であるのに対し、頭蓋顎顔面では神経堤細胞が骨格形成に関与するという点である。神経堤細胞 は、神経管が形成される時期に神経堤の細胞が間葉細胞化して出現する。その後三胚葉形成によって発生した中胚葉由来の間葉中を移動し、目的とする部位にお いて神経節等様々な組織に分化する。すなわち哺乳類頭蓋顎顔面の間葉組織を構成するのは頭部神経堤細胞と頭部中胚葉であり、両細胞群の相互作用は頭蓋顎顔 面の形態形成に重要な役割を果たすと考えられる。哺乳類は鳥類などと比較すると、その操作性の問題から各々の組織の由来を検討することは困難であり、時間 的空間的な神経堤細胞および中胚葉の分布の検討はほぼ不可能であった。本シンポジウムでは頭部神経堤細胞、および頭部中胚葉を標識する遺伝子改変マウスを 用いて、頭蓋顎顔面におけるそれぞれの細胞群の発生過程における分布状況および組織関与について報告する。

 また後半は、げっ歯類の上顎切歯形成について報告する。rSey2ラットは転写因子Pax6に変異をもち、ヘテロ接合体で小眼症、ホモ接合体で無 眼症を呈する。ホモ接合体では中脳前方由来の神経堤細胞の移動が阻害され、その結果外側鼻隆起が形成されないために内側鼻隆起と上顎隆起が融合せず、顔面 裂となる。ホモ接合体では過剰上顎切歯が約25%の頻度で出現する。この過剰切歯の発生について検討 したところ、上顎切歯の歯胚は2つの歯堤の融合によって形成され、この融合に顔面隆起 の融合が必要である事が示唆された。これはヒトの口唇裂において観察される過剰歯の発現を説明するものと考えている。

5.性染色体分化とアメロジェニン遺伝子

総合研究大学院大学 先導科学研究科
岩瀬峰代

 アメロジェニンは、エナメル質のハイドロキシアパタイトの配向を決定するたんぱく質として知られている。ヒトにおいて、このたんぱく質をコードする遺伝 子はX染色体(AMELX)とY染色体(AMELY)の2箇所に存在し、AMELYAMELX1/10量であるが、ともに発現していることが確認されている。

 私たちは数種の哺乳類を用いて、7つのエクソンを持つこの遺伝子のプロモータ領域からエクソン6までの配列を決定し、分子進化的解析を行うことにより性 染色体分化の境界部がイントロン2の中に位置することを発見した。

 性染色体は相同組み換えが領域ごとに抑制され常染色体から分化したと考えられている。つまり祖先型の性染色体の二つのアリルは、常染色体のように自由に 相同組み換えが行われていたが、その一部の組み換えが抑制され、それぞれに突然変異をため、性染色体として分化する。そして再び段階的に組み換えが抑制さ れ、ヒトに見られるような性染色体に分化する。私たちはヒトX染色体短腕の約半分の塩基配列と対をなすY染色体上の塩基配列を比較し、段階的に(0.1%8%10%20%) p-distanceが変化していることを確認した。Amelogeninイントロン2で発見された境界は10%領域と20%領域の境界部にあたる。

 さらに、私たちは10%領域の中に特異的にp-distance15%の低い値を示す領域を発見した。この低いp-distanceを示す領域は最近までX染色体とY染色体の組み換えが起きていたことを示唆する。この領域にはカールマン症候群関連遺伝子(KAL1KALX)が存在し、霊長類数種のKALX及びKALYの配列を用いて進化学的解析を行ったところ、各々の系統で独立に起きた遺伝子変換を検出し た。異所性遺伝子変換により、偽遺伝子化したKALYの配列の一部がKALXの配列を置き換え、このことがカールマン症候群発症の原因の1つであると考えられた。

 本シンポジウムでは性染色体分化の様相と性染色体分化後の相同組み換えが遺伝子の構造に及ぼす影響を概説する。


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