研究概要

1. LBC法により口腔がんの早期発見可能なマーカーの検索

多くの口腔扁平上皮癌(OSCC)は、前がん病変である口腔上皮性異形成から発生するが、OSCCの早期発見に有用なマーカーは現在見られない。本研究は、液状化検体細胞診(LBC法)を用いて、舌癌の発がんモデル動物における各段階をmRNAやタンパク質などの発現パターンの変化を、連続的に観察することで新規マーカーを見出すことを目的とした。よって細胞診に基づく診断に免疫細胞化学を組み合わせることで、OSCCの診断精度が向上することを証明する。

2. 口腔癌関連悪液質の改善を目指した漢方薬の抗炎症作用実証(サルコペニアの改善)

我々の研究は口腔がん関連悪液質に対して、舌癌モデル動物を利用し、漢方薬を投与することで悪液質やサルコペニアの改善を目的とする。我々が開発した舌発がん動物モデルを用いて、LBC法により口腔がんの発生の時点から、栄養状態、炎症状態、免疫状態を改善する漢方薬を投与し、抗炎症作用の改善状態を、採血やLBC法により確認して、有力な漢方薬を見出す。

3. 唾液腺多形腺腫の低酸素応答性増殖機構:SM-AP細胞系による解析

頭頸部腫瘍の中でも多形腺腫は良性の唾液腺腫瘍ですが、臨床的には手術後再発や、転移、巣状がんと呼ばれる二次がんに発展することが知られています。 われわれは以前に、多形腺腫の腫瘍間質には免疫系細胞及び血管などの間葉系細胞が介在せず、腫瘍自身の分泌する細胞外基質(ECM)が豊富に蓄積していることを示してきました。しかしながら、唾液腺多形腺腫細胞の機能におけるECM間質の意義はまだよくわかっていません。本研究では、耳下腺の多形腺腫からクローニングしたSM-AP細胞をもちいて、唾液腺多形腺腫の間質は低酸素であり、乏血管性と豊富なECMにより腫瘍細胞が増殖できるメカニズムについて検討しています。

4. 口腔扁平上皮癌の病理組織界面解析

口腔扁平上皮癌は、病理組織学的に周囲の非癌粘膜上皮との間に明瞭な界面を形成することがあります。界面部の病理形態解析やタンパク質網羅的解析を行うことで、癌組織のなかでも非癌粘膜上皮との界面部で発現量の増加しうるタンパク質を同定し、癌細胞と非癌細胞の違いを病理組織学的に視覚化するとともに、癌細胞の進展機序の解明を目指しています。ここで同定されたタンパク質の中で、ladinin-1 というタンパク質が、癌細胞の進展方向性に関連している可能性を見出し、現在解析を進行中です。

 

5. 頭頸部扁平上皮癌における mRNA 選択的スプライシングの意義

癌細胞は、非癌細胞に比べて多様なタンパク質を発現しています。タンパク質の多様性を生み出す仕組みの一つに、mRNA (メッセンジャーRNA)の選択的スプライシングがあります。選択的スプライシングは、癌の発生・進展や予後に関わることが知られており、我々は公共データベースを用いた解析と、ロングリード次世代シーケンサーによるRNAシーケンシングを併用して、癌における選択的スプライシングの意義の解明を目指しています。(新潟大学メディカル AI センター 奥田教授・凌助教, Zurich 大学病院 Prof. Koelzer, Dr. Lafarge との共同研究)

6. 細胞死を起点とした口腔がん進展機序の解明

がん細胞は正常細胞にくらべて速く増殖しますが、同時に細胞死が高頻度に生じています。死んだがん細胞は通常、腫瘍内に動員された免疫細胞によって処理され、抗腫瘍免疫(がん細胞を死滅させる免疫機能)に寄与すると考えられています。しかし、死んだがん細胞が周囲の生きているがん細胞にどのような影響を及ぼすのかはよくわかっていません。これまで我々は、死んだがん細胞は生きているがん細胞に貪食されることで、がん細胞の運動能力を高めて、がん進展を促進することを見出してきました。現在、詳細なメカニズムの研究を進めており、細胞死を起点としたがん進展機序を標的とした新規治療開発を目指しています。


当分野における臨床研究のお知らせ

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